・・・東山以来の積勢で茶事は非常に盛んになった。茶道にも機運というものでがなあろう、英霊底の漢子が段に出て来た。松永弾正でも織田信長でも、風流もなきにあらず、余裕もあった人であるから、皆茶讌を喜んだ。しかし大煽りに煽ったのは秀吉であった。奥州武士・・・ 幸田露伴 「骨董」
拝啓。暑中の御見舞いを兼ね、いささか老生日頃の愚衷など可申述候。老生すこしく思うところ有之、近来ふたたび茶道の稽古にふけり居り候。ふたたび、とは、唐突にしていかにも虚飾の言の如く思召し、れいの御賢明の苦笑など漏し給わんと察・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・の中に「茶道は美を見いださんがために美を隠す術であり、現わす事をはばかるようなものをほのめかす術である」と言っているのも同じことで、畢竟は前記の風雅の道に立った暗示芸術の一つの相である。「言いおおせて何かある」「五六分の句はいつまでも聞きあ・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・の中に茶道礼讚として萌芽を表しているに止った。 かくて、作家は教養を求めんとして机にしばりつけられたのであったが、古典作品の鑑賞に於ては或る意味でのペダンティシズムが跳梁するばかりであるし、作品の現実はその関心の中心が益々技巧専一の職人・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・では日本の精神の緊張、高邁さの一典型として茶道を礼讚した。その気の張りさえも「厨房日記」では棄てている姿は、当時、翻訳紹介されたジイドのソヴェト旅行記にある反現実的な態度と微妙に日本の空気の裡で結びつき、反欧州文学思潮の流れを太くした。・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・の中には散見するのであるが、精神的高揚の究極は茶道の精神と一脈合致した「静中に動」ありという風な東洋的封建時代の精神的ポーズに戻る今日のインテリゲンチア作家の重い尾骨は、年齢を超えて正宗にも横光にも全く同じ傾向をもって現れている。このことは・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ 茶道の名人達は、その感情を深く味到したのだろう。悲しい事に、今日東京に住む私共は、全然野生に放置された自然か、或は厭味にこねくられた庭か、而も前者はごく稀れにしか見られないと云う不運にあるのだ。 ジョージ・ギッシングは、非常に・・・ 宮本百合子 「素朴な庭」
・・・を主とする茶道が、関西にしても関東にしても大ブルジョアの間にだけ、嗜好されているという現実である。骨董で儲けるには茶器を扱って大金持の出入りとならなければ望みはない。今日日本の芸術の特徴とされている「さび」は常人の日暮しの中からは夙に蒸発し・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
出典:青空文庫