・・・こう云う風であるから真面目に熱心に斯道の研究をしようと云う考えはなく少しく名が出れば肖像でも画いて黄白を貪ろうと云うさもしい奴ばかりで、中にたまたま不折のような熱心家はあるが貧乏であるから思うように研究が出来ぬ。そこらの車夫でもモデルに雇う・・・ 寺田寅彦 「根岸庵を訪う記」
・・・それどころか、ややもすればわれわれの中のさもしい小我のために失われんとする心の自由を見失わないように監視を怠らないわれわれの心の目の鋭さを訓練するという効果をもつことも不可能ではない。 俳句の修業はその過程としてまず自然に対する観察力の・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・当時、既に正宗白鳥氏その他が現在保護と監視は同義語であるとして、「文学者がさもしい根性を出して俗界の強権者の保護を求めたりするのは藪蛇の結果になりそうに私には想像される」と云った。 文芸院はその後形を変えて「文芸懇話会」となり、文芸院が・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 悪妻は、良人から渡された金がすくないと、それで出来る賄いはこれですよ、とひどいものを並べて辟易させるというさもしい手を心得ている。 贅沢品とりしまりの標準は月収三百円とかいわれているが、これに該当する生活者は日本の全人口の僅何割か・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・たような風でいっている警保局云々の考えかたを、そのようにケシかけたりするのは意外のようであるとし、山本有三、佐藤春夫、三上於菟吉、吉川英治その他が組織した文芸院の仕事の価値をも言外にふくめて「文学者がさもしい根性を出して俗界の強権者の保護を・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・便乗という響には、卑屈ながら、さもしいながら、昼間という感じがある。足許が見えなければ、乗るにも乗れまいというところがあった。闇にまぎれて便乗するにしろ、ステップをてらすライトといった感じである。 闇のくらさは何にたとえよう。ふつう人の・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・――永年の宿望を遂げて、貯蓄した金でさて一軒建てようという人々のように、騙されやしまいかと心配したり一円でも廉くていいものを使いたいとか、こせついて癪に触るようなさもしいところが、飯田の奥さんにはちっともなかった。――が、後見の手塚準之助が・・・ 宮本百合子 「牡丹」
出典:青空文庫