・・・古い猟銃を持ち出して、散弾をこめた。引鉄を握りしめると、銃声がして、畝にたかっていた鳩は空中に小気味よく弧を描いて、畠の上に落ちた。 しかし、すぐ、駐在所から、銃声を聞きつけた奴がとび出してきた。鉄砲の持主をセンサクした。だが、米吉はど・・・ 黒島伝治 「名勝地帯」
・・・実は過日家を出てから、もうとても今じゃあ真当の事ア遣てる間がねえから汝に算段させたんで、合百も遣りゃあ天骰子もやる、花も引きゃあ樗蒲一もやる、抜目なくチーハも買う富籤も買う。遣らねえものは燧木の賭博で椋鳥を引っかける事ばかり。その中にゃあ勝・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・いったいお前は、どこから、そんな大金を算段出来たの?」 父は酒と煙草とおいしい副食物のために、いつもお金に窮して、それこそ、あちこち、あちこちの出版社から、ひどい借金をしてしまって、いきおい家庭は貧寒、母の財布には、せいぜい百円紙幣三、・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・それから、また、こないだみたいにお酒の算段をたのみます。日本酒が無かったら、焼酎でもウイスキイでもかまいませんからね、それから、食べるものは、あ、そうそう、奥さん今夜はね、すてきなお土産を持参しました、召上れ、鰻の蒲焼。寒い時は之に限ります・・・ 太宰治 「饗応夫人」
・・・おのれの愛情の深さのほどに、多少、自負もっていたのが、破滅のもと、腕環投げ、頸飾り投げ、五個の指環の散弾、みんなあげます、私は、どうなってもいいのだ、と流石に涙あふれて、私をだますなら、きっと巧みにだまして下さい、完璧にだまして下さい、私は・・・ 太宰治 「創生記」
・・・しかも、注射代などけっして安いものではなく、そのような余分の貯えは失礼ながら友人にあるはずもなく、いずれは苦しい算段をしたにちがいないので、とにかくこれは、ひどい災難である。大災難である。また、うっかり注射でも怠ろうものなら、恐水病といって・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・戦地へ出かける途中、上野駅に下車して、そこで多少の休憩の時間があるからそれを利用し、僕と一ぱい飲もうという算段にちがいないと僕は賢察していたのである。もうその頃、日本では、酒がそろそろ無くなりかけていて、酒場の前に行列を作って午後五時の開店・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・八月二十五日 晴 日本橋で散弾二斤買う。ランプの台に入れるため。八月二十六日 曇、夕方雷雨 月蝕雨で見えず。夕方珍しい電光 Rocket lightning が西から天頂へかけての空に見えた。丁度紙テープを投げるよう・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・たところから、病気が長引くとみて、必要なものだけひと鞄東京の宅から送らせて、当分この町に滞在するつもりであったが、嫂も看護に行っていて、留守宅には女中が二人いるきりなので、どこぞほかに宿を取ろうという算段であった。兄の家では、大阪から見舞い・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・親父が無理算段の学資を工面して卒業の上は月給でも取らせて早く隠居でもしたいと思っているのに、子供の方では活計の方なんかまるで無頓着で、ただ天地の真理を発見したいなどと太平楽を並べて机に靠れて苦り切っているのもある。親は生計のための修業と考え・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
出典:青空文庫