・・・ 月、星を左右の幕に、祭壇を背にして、詩経、史記、二十一史、十三経注疏なんど本箱がずらりと並んだ、手習机を前に、ずしりと一杯に、座蒲団に坐って、蔽のかかった火桶を引寄せ、顔を見て、ふとった頬でニタニタと笑いながら、長閑に煙草を吸ったあと・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・るいは中原道となり、あるいは世田ヶ谷街道となりて、郊外の林地田圃に突入する処の、市街ともつかず宿駅ともつかず、一種の生活と一種の自然とを配合して一種の光景を呈しおる場処を描写することが、すこぶる自分の詩興を喚び起こすも妙ではないか。なぜかよ・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・即ち月曜日には孟子、火曜日には詩経、水曜日には大学、木曜日には文章規範、金曜日には何、土曜日には何というようになって居るので、易いものは学力の低い人達の為、むずかしいものは学力の発達して居るもののためという理窟なのです。それで順番に各自が宛・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・このたびわが塾に於いて詩経の講義がはじまるのであるが、この教科書は坊間の書肆より求むれば二十二円である。けれども黄村先生は書生たちの経済力を考慮し直接に支那へ注文して下さることと相成った。実費十五円八十銭である。この機を逃がすならば少しの損・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・これについて読者の示教を仰ぐことができれば幸いである。 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・玩具研究家の示教を得れば幸いである。 こんな巧妙なものでも、時代に合わず、西洋からはやってこない限りたいして商売にはならないらしい。 二十年前に見た時に感心したのは売り手のじいさんの団扇の使い方の巧妙なことであった。団扇の微妙な動か・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ しかしこれらの点についてはむしろ本誌の読者の側から示教を仰ぐべきであろう。以上はただ全くの素人の想い出話のついでに思い付くままの空想を臆面もなく書付けて見ただけである。 寺田寅彦 「鴫突き」
・・・左の一篇は、一般に予報の可能なるための条件や、その可能の範囲程度並びにその実用的価値の標準等につきて卑見を述べ、先覚者の示教を仰ぐと同時に、また一面には学者と世俗との間に存する誤解の溝渠を埋むる端緒ともなさんとするものなり。元来この種の問題・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・その後にまた麻布の伊藤泰丸氏から手紙をよこされて、前記原氏のほかに後藤道雄、青地正皓、相原千里等の各医学博士の鍼灸に関する研究のある事を示教され、なお中川清三著「お灸の常識」という書物を寄贈された、ここに追記して大泉氏ならびに伊藤氏に感謝の・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・しかし何よりも先ず事実の方から確かめてかかる事が肝心であるから、万一読者の中でそういう現象を目撃した方があったらその観察についての示教を願いたいと思う次第である。 事実を確かめないで学者が机上の議論を戦わして大笑いになる例はディッケンス・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
出典:青空文庫