・・・ 八日、基ちゃんと、青山にかえる途中、乃木坂行電車の近くで、大森の基ちゃんの友人に会い、実際鮮人が、短銃抜刀で、私人の家に乱入した事実を、自分の経験上はなされた。 つかまった鮮人のケンギの者にイロハニを云わせて見るのだそうだ。そして・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
今年は、九月の太陽に「我に叛く」を発表したぎりでございました。従って、此処に改めて述ぶべきほどの感想も持合わせません。只あの作は、自分並私人的周囲に強い影響を与えたと云う点で、忘られないものになりました。〔一九二一年十・・・ 宮本百合子 「強い影響を与えた点で」
・・・ そう云う美しい女詩人が人を殺して獄に下ったのだから、当時世間の視聴を聳動したのも無理はない。 ―――――――――――――――――――― 魚玄機の生れた家は、長安の大道から横に曲がって行く小さい街にあった。所・・・ 森鴎外 「魚玄機」
・・・デネマルクの詩人は多くこの土地へ見えますよ。」「小説なんと云うものを読むかね。」 エルリングは頭を振った。「冬になると、随分本を読みます。だが小説は読みません。若い時は読みました。そうですね。マリイ・グルッベなんぞは、今も折々出して・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・ もっとも、この三つの点以外であげられている名人は、我々にはちょっと歯の立たない連中である。詩人では南禅寺の惟肖和尚が、二、三百年このかた、比べるもののない最一の作者とされている。平家がたりでは、千都検校が、昔より第一のもの、二、三百年・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫