・・・ で恋愛は自由というけれども、公事ではないから、自分の私事問題だ。これが社会的に問題となって各自責任があるのは、女のもっている、或は男のもって居る社会人としての責任義務を通して社会一般の問題となって行くだけである。 恋愛を其の日の事・・・ 宮本百合子 「ソヴェトに於ける「恋愛の自由」に就て」
・・・で恋愛は自由というけれども、公事ではないから、自分の私事問題だ。これが社会的に問題となって各自責任があるのは、女のもっている、或は男のもっている社会人としての責任義務を通して社会一般の問題となって行くだけである。恋愛をその日の事業として暮す・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・以来彼女が傾倒し師事していた当時の大家ルパアジュが加筆したような噂がつたえられた。そのルパアジュは三十六歳で、そのときはもう病床で生と死との境にあった。マリアは、この画をかくために、街頭スケッチまでして努力したのであった。ここで、私たちは一・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・最高現金で五〇〇円という指示は、最低を現金で四五〇円厳守と規定した上でのことなのだろうか。その点について、政府は一言の説明をも加えていない。現金八〇〇円といっている人々が五〇〇円になっては困ると思うよりも、三五〇円しか現在貰っていない人が最・・・ 宮本百合子 「モラトリアム質疑」
・・・しかし私の事は姑く措くとして、君は果して東京で師事すべき人を求めることの出来ぬ程、ドイツ語に通じているか。失敬ながら私はそれを疑う。こう云いつつ、私は机の上にあった Wundt を取って、F君の前に出して云った。これは少し専門に偏った本で、・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・ときどき彼を見舞いに来る高田と会ったとき、梶は栖方のことを云い出してみたりしたが、高田は死児の齢を算えるつまらなさで、ただ曖昧な笑いをもらすのみだった。「けれども、君、あの栖方の微笑だけは、美しかったよ。あれにあうと、誰でも僕らはやられ・・・ 横光利一 「微笑」
・・・羅山はそれ以前から熱心な仏教排撃者であって、そういう論文をいくつか書いているが、それによると、解脱は一私事であって、人倫の道の実現ではない、というのである。同時にまた彼は熱心なキリシタン排撃者であって、仕官の前年に『排耶蘇』を書いている。松・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・ 一つの私事歳暮余日も無之御多忙の程察上候。貴家御一同御無事に候哉御尋申候。却説去廿七日の出来事は実に驚愕恐懼の至に不堪、就ては甚だ狂気浸みたる話に候へ共、年明候へば上京致し心許りの警衛仕度思ひ立ち候が、汝、困る様之・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・ここで真に芸術の使徒となろうとする人は生命を賭してロマン・ロオランのごとき人を支持するのである。 人間は神の前において平等である。しかしある人は他の人よりも多くの稟賦を恵まれ、そのより多くの力をもって指導者の位置につくことができる。ある・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・ 吉田文五郎氏の話した若いころの苦心談はこの事を指示していたように思われる。足を使っていた少年の彼を師匠は仮借するところなく叱責した。種々に苦心してもなかなか師匠は叱責の手をゆるめない。ある日彼はついに苦心の結果一つのやり方を考案し、そ・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫