・・・伝統的な士道の末期的な教養は一面で馬琴の世界に勧善懲悪の善玉悪玉をつくり出しているとともに、他の半面では既に封建の石垣がくずれようとしている現実的な力に浸潤され、より現実の市民常識への拡大が行われているのである。 明治の初期の文学では、・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・彼は応仁乱後数年まで生きていたのであり、『樵談治要』なども乱後に書いたものであるが、しかし彼が新しい時代に対して抱いたのはただ恐怖のみであって、新しい建設への見通しでもなければ、新しい指導的精神の思索でもなかった。『樵談治要』のなかに彼は「・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・巨石運搬の場合には大綱に取りついた無数の群衆と、その群衆の力を一つにまとめる指導者とが必要である。絵で見ると巨石の上には扇をかざした人が踊っている。というのは、全身を指揮棒に代えて群衆の呼吸を合わせているのである。京都の祇園祭りの鋒の山車の・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫