・・・銅板に墨で住所氏名を書いた見本が並べられている。モーニングを着て老妻をつれた年寄の男が、紋付羽織の案内人にそこへ惰勢的に引こまれている。 小豆島の村にも八十八ヵ所のお札所があり、そこの第一番のお札所を建て直すとき、やっぱりこういう風に、・・・ 宮本百合子 「上林からの手紙」
・・・ おととしの十二月二十日すぎに、巣鴨から釈放されて、社会生活にまぎれこんで来た児玉誉士夫、安倍源基らの人々の氏名経歴を思い出して見れば、それにつづく一九四九年の権力が、そのかげにどんな要素をよりつよく含むようになったかということはおのず・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ ジイドも、彼の細君の発熱についてはそういう本質の差を知っており、又当然知ろうとするであろうのに、芸術家の死命を制する人間的叡智の根源において、歴史の相貌の質的相異の知覚を失っているばかりか、それを自ら恐怖しもしないというのは、何という・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・ 益々その範囲を拡大するという風評と図書課長談として同様の意嚮の洩されたことは、事実指名をされなかった窪川夫妻などの執筆場面をも封鎖した結果になっている。 一月十七日中野重治と自分とが内務省警保局図書課へ、事情をききに出かけた。課長・・・ 宮本百合子 「一九三七年十二月二十七日の警保局図書課のジャーナリストとの懇談会の結果」
・・・第二として法廷における証人尋問に対して公判期日において証人尋問することはできないが、これは刑訴第二九九条によりあらかじめ証人の住所、氏名を相手方に知り得る機会を与えなければならない。しかし、証人尋問は重要なことであるので、この度の三鷹事件の・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・アパートメントの入口にはいつも玄関番がいて、若し来客でもあった時には氏名、用向を聞いて書きつけて置きます。それを、帰って来た時に渡して呉れるのですが、あちらでは、約束をして置かないで人を訪問するのは、留守へ出掛けるものと定めて置いてよい位、・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・どちらでもよいように永山氏はただ大浦天主堂御中という指名にされてある。私丁寧に答える。「どちらでもよろしいのです。拝観さえ出来れば」 すると、爺さん、名刺を見ようともせず私にかえし「拝観なら、私でええ。今、葬式で皆お留守だ。そこ・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・その役人とジャーナリストたちとの定期会見の席で、あるジャーナリストから編輯上の判断に困るから内務省として執筆を希望しない作家、評論家を指名してくれといったために、当局としては個人指名までを考えてはいなかったのに、数名の人の生活権をおびやかす・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ さて、漸く各大臣も着席し議長から開会が宣せられた。指名にしたがって米内首相が登壇した。悠たりとしたモーニング・コートの姿である。その恰幅と潮風に鍛えられた喉にふさわしい低い幅のある荘重な音声で草稿にしたがって読まれる演説は、森とし・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・しかしそれなら何か云えと云われたら、彼は丁度テーブルスピーチを急に指名された場合のように 一種の当惑を感じただろう。○扉を細めにあけて、そこに繩をはった有蓋貨車に人がのって走って行った。○正一が千葉から戻ってえの、○○がつれ・・・ 宮本百合子 「無題(十二)」
出典:青空文庫