・・・どんな複雑な趣向で、どんな纏った道行を作ろうとも畢竟は、雑然たる進水式、紛然たる御花見と異なるところはないじゃないか。喜怒哀楽が材料となるにも関わらず拘泥するに足らぬ以上は小説の筋、芝居の筋のようなものも、また拘泥するに足らん訳だ。筋がなけ・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・ 二つともよく似た趣向なので、あるいは新しいほうが古い人のやったあとを踏襲したのではなかろうかという疑いさえさしはさめるくらいだが、それは自分にはどうでもよろしい。ただ自分もつい近ごろ、これと同様の経験をしたことがある。そのせいか今まで・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・けれどもそれが西洋人一般の判断だと、先生から注意されて見ると、なるほどと首肯せざるを得ない。こういう意味において、先生の著述は日本を外国に紹介する上に非常な利益があるばかりでなく、研究心に富んだ外国人が、われら自身を如何に観察しているかを知・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・ただ小説家でない私は、脚色や趣向によって、読者を興がらせる術を知らない。私の為し得ることは、ただ自分の経験した事実だけを、報告の記事に書くだけである。 2 その頃私は、北越地方のKという温泉に滞留していた。九月も末に・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・さッきからお酒肴が来てるんじゃありませんか」「善さんもお客だッて。誰がお客でないと言ッたんだよ。当然なことをお言いでない」と、吉里は障子を開けて室内に入ッて、後をぴッしゃり手荒く閉めた。「どうしたの。また疳癪を発しておいでだね」・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・此一面より見れば愚なるが如くなれども、方向を転じて日常居家の区域に入り、婦人の専ら任ずる所に就て濃に之を視察すれば、衣服飲食の事を始めとして、婢僕の取扱い、音信贈答の注意、来客の接待饗応、四時遊楽の趣向、尚お進んで子女の養育、病人の看護等、・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・記者先生に於ても二百年来の変遷を見て或は首肯せらるゝことある可し。 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・然るに西洋流の帳面をそのままに用い、横文の数字を横に記して、人の姓名も取引の事柄も日本の字を横に書き、いわば額面の文字を左の方から読む趣向にするものありと聞けり。 この趣向はなはだ便利なり。第一、西洋の帳面を摸製するにやすく、あるいは摸・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・本日たまたま中元、同社、手から酒肴を調理し、一杯をあげて、文運の地におちざるを祝す。 慶応四年戊辰七月慶応義塾同社 誌 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
・・・ 世に教育なるものの必要なるは、すなわちこのゆえにして、人学ばざれば智なきがゆえに、学校を建ててこれを教え、これを育するの趣向なり。されども一概に教育とのみにては、その意味はなはだ広くして解し難く、ために大なる誤解を生ずることあり。そも・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
出典:青空文庫