・・・しかも、社会の現実は進んでいて、往年の情熱詩人、与謝野晶子が「みだれ髪」に歌ったような恋愛の感情は、今日の若い人々の心には住み得ない。ましてや「万葉」の境地においておやである。中産階級の急速な貧困化、それにともなって起っている深刻な失業、イ・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・あれだけの小さな証紙、あの悪い印刷の小さな膏薬みたいなような証紙を、なんともしようのない、病人であるいまの経済状態のところへ、ちょっと貼って、彌縫するように貼って持って歩いている。ところが、モラトリアムになってから、新聞の記事を御覧になって・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・アカデミックな国文学者の著になる和泉式部の研究を土台として、一躍情熱の女詩人与謝野晶子への讚美となることの腑に落ちなさは一般文化人の胸にありつつ、何故輿論としてそれが発言されないのであろうか。文学に即して見れば、従来の国文学研究が実社会から・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・新聞は毎日毎日、勇壮無比な形容詞をくりかえして、前線の将士の善戦をつたえているが、現代の読者が、ああいう大ざっぱで昔風の芝居がかりな勇気というもののいいあらわしかたや、献身というものの表現を、不満なくうけとって、心持にそぐわない何ものをも感・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・作品の中で人間性の濃度を高めるためにこの作者は意企的に異常性格を持った嘉門とその妻松子、娘息子をとり来って、殆どグロテスクな転落の絵図をくりひろげたが、この作品の世界に対して作者は責任を感じていず、登場している私という中枢の人物は、本質的に・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 豊田正子の「綴方教室」が異常な好評で迎えられたのもこの時期である。随筆への傾きはこの時期更に一歩を進めて、少女の作文にさえ何かの新味と現実の姿とをみようとする状態であった。川端康成が、女子供の文章の真実を、その素朴な偽なさの故に評価し・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 豊田正子の「綴方教室」小川正子の「小島の春」などが、この波頭であった。これらの本は、文学では生産文学、素材主義の文学が現れて生活の実感のとぼしさで人々の心に飢渇を感じさせはじめた時、玄人のこしらえものよりも、素人の真実な生活からの記録・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・という作品をかき、与謝野晶子が「君死に給うことなかれ」という詩をかいて戦争の惨酷に反対したことは有名です。しかしこの二つの代表的な婦人の手による戦争反対の作品は、日本の文学史に全文をのせることさえはばかられていました。与謝野晶子の詩が発表さ・・・ 宮本百合子 「戦争と婦人作家」
・・・後年、日本の女詩人与謝野晶子の健やかな双脚をして思わずもすくませたりという凱旋門をめぐる恐ろしい自動車の疾駆は未だ見えず、二頭びきの乗合馬車がカツカツと二十世紀初頭の街路を通っている。 書簡註。ランガム・ホテル全景。第・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・うぞいのそれでも名だけは清姫さん ほんとにおかしじゃないかいナ土間に坐った見物の御重の間につややかなながしめくれてまいのふり泣く筈のとこまちがって妙なしなして笑い出すほんに笑止じゃないかいナつまたててソッ・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
出典:青空文庫