・・・それは職能の何たるを問わず、何人もその人格完成を願い精進しなければならないからである。 私は青年学生が人生の重要問題に関する自らの「問い」をもって読書することをすすめたい。生に真摯であれば「問い」がないはずはない。そして「問い」こそ自発・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ところが私の精進はまたあべこべで世間と現実とを知っていくところにあった。そして『恥以上』という戯曲にまでそれが発展したのだ。これは私のエレメントである同じ宗教的情操の、世間にもまれた後の変容であって、私は『出家とその弟子』よりも進んでいると・・・ 倉田百三 「『出家とその弟子』の追憶」
・・・ 二 ユフカ村から四五露里距っている部落――C附近をカーキ色の外皮を纏った小人のような小さい兵士達が散兵線を張って進んでいた。 白樺や、榛や、団栗などは、十月の初めがた既に黄や紅や茶褐に葉色を変じかけていた。・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・そして、はなはだ尊敬すべき善人ではなくとも、またはなはだ嫌悪すべき悪人でもない多くの小人・凡夫が、あやまって時の法律にふれたために――単に一羽の鶴をころし、一頭の犬をころしたということのためにすら――死刑に処せられたのも、また事実である。要・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・に処せられたのは事実である、左れど此れと同時に多くの尊むべく敬すべく愛すべき善良・賢明の人が死刑に処せられたのも事実である、而して甚だ尊敬すべき善人ならざるも、亦た甚だ嫌悪すべき悪人にもあらざる多くの小人・凡夫が、誤って時の法律に触れたるが・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・自身その気で精進すれば、あるいは一流作家になれるかも知れない。この家の、足のわるい十七の女中に、死ぬほど好かれている。次女は、二十一歳。ナルシッサスである。ある新聞社が、ミス・日本を募っていたとき、あのときには、よほど自己推薦しようかと、三・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・必ず、よい御家庭の、佳き夫であり、佳き父であり、つつましい市民としての生活を忍んで、一生涯をきびしい芸術精進にささげたお方であると、私は信じて居ります。前にも、それは申しましたが、「尊敬して居ればこそ、安心して甘えるのだ。」という日本の無名・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・手管というのは、たとえばこんな工合いの術のことであって、ひとりの作家の真摯な精進の対象である。私もまた、そのような手管はいやでなく、この赤児の思い出話にひとつ巧みな手管を用いようと企てたのである。 ここらで私は、私の態度をはっきりきめて・・・ 太宰治 「玩具」
・・・殊にも、おのが貴族の血統を、何くわぬ顔して一こと書き加えていたという事実に就いては、全くもって、女子小人の虚飾。さもしい真似をして呉れたものである。けれども、その夜あんなに私をくやしがらせて、ついに声たてて泣かせてしまったものは、これら乱雑・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・ゆるゆる御精進おたのみ申し上候。昨日は又、創作、『ほっとした話』一篇、御恵送被下厚く御礼申上候。来月号を飾らせていただきたく、お礼如此御座候。諷刺文芸編輯部、五郎、合掌。」 月日。「お手紙さしあげます。べつに申しあげることもない・・・ 太宰治 「虚構の春」
出典:青空文庫