・・・そうして最後の刹那の衝動的な変化をもっと分析して段階的加速的に映写したい。それから上野が斬られて犬のようにころがるだけでなく、もう少し恐怖と狼狽とを示す簡潔で有力な幾コマかをフラッシュで見せたい。そうしないとせっかくのクライマックスが少し弱・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・そうして観者の頭の中の映画に強いアクセントを与え、同時に次の進展への衝動と指針を与える。これは驚くべき芸術であるとも言われなくはない。これはともかくも一つの問題である。そうしてこの問題を追究すればその結果は必ず映画製作者にとってきわめて重要・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・名士の家族であっただけにそのニュースは郷里の狭い世界の耳目を聳動した。現代の海水浴場のように浜辺の人目が多かったら、こんな間違いはめったに起らなかったであろうと思われる。 溺死者の屍体が二、三日もたって上がると、からだ中に黄螺が附いて喰・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
・・・そうしてその結果は世にも目ざましき大量殺人事件となって世界の耳口を聳動するであろうことは真に火を見るよりも明らかである。このような実例の小規模なものは従来小さな映画館の火事の場合に記録されている。しかし人数の桁数のちがうデパートであったらは・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・ 昔はとにかく今日では我邦ですらも科学というものの功利的価値は、理解されたというよりむしろ無理解に世間で唱道されている。その当然の結果として科学者はそういう意味で尊重されている。従って科学者は自分の研究以外の事で常に忙しい想いをするよう・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 軍縮問題が一時国内の耳目を聳動した。問題は一に国防の充実いかんにかかっている。陸海軍当局者が仮想敵国の襲来を予想して憂慮するのももっともな事である。これと同じように平生地震というものの災害を調べているものの目から見ると、この恐るべき強・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・ 向こうの小道をまれに百姓が通ったが、わざわざ自分の所までのぞきに来る人は一人もなかった。 どれだけ時間が経過したかまるでわからなかった。ただ律儀な太陽は私にかまわずだんだんに低くたれ下がって行って景色の変化があまりに急激になって来・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・丙は時として荊棘の小道のかなたに広大な沃野を発見する見込みがあるが、そのかわり不幸にして底なしの泥沼に足を踏み込んだり、思わぬ陥穽にはまって憂き目を見ることもある。三種の型のどれがいけないと言うわけではない。それぞれの型の学者が、それぞれの・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・そうかといって太平のシャンゼリゼーの大通りやボアの小道を散歩するのに、まさか弓矢や人殺し用の棍棒や台所用のパン棒を携えるわけにも行かないから、その代わりに何かしら手ごろな棒きれを持つことになったのではないかとも想像される。とにかく昔のシナで・・・ 寺田寅彦 「ステッキ」
・・・毛氈のような草原に二百年もたった柏の木や、百年余の栗の木がぽつぽつ並んで、その間をうねった小道が通っています。地所の片すみに地中から空気を吹き出したり吸い込んだりする井戸があって、そこでその理屈を説明して聞かせました。低気圧が来る時には噴出・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
出典:青空文庫