・・・何故と云えば、斉広の持っている煙管は真鍮だと云う事が、宗俊と了哲とによって、一同に証明されたからである。 そこで、一時、真鍮の煙管を金と偽って、斉広を欺いた三人の忠臣は、評議の末再び、住吉屋七兵衛に命じて、金無垢の煙管を調製させた。前に・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・しかし薄蒼いパイプの煙は粟野さんの存在を証明するように、白壁を背にした空間の中へ時々かすかに立ち昇っている。窓の外の風景もやはり静かさには変りはない。曇天にこぞった若葉の梢、その向うに続いた鼠色の校舎、そのまた向うに薄光った入江、――何もか・・・ 芥川竜之介 「十円札」
・・・氏は明らかに私のいう第二か第三かの芸術家的素質のうちのいずれかに属することをみずから証明していられるのだ。しかもその所説は、私の見る所が誤っていないなら、第一の種類に属する芸術家でも主張しそうなことを主張していられる。もし第一の種類に属する・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・飾の鳥には、雉子、山鶏、秋草、もみじを切出したのを、三重、七重に――たなびかせた、その真中に、丸太薪を堆く烈々と燻べ、大釜に湯を沸かせ、湯玉の霰にたばしる中を、前後に行違い、右左に飛廻って、松明の火に、鬼も、人も、神巫も、禰宜も、美女も、裸・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・「その時、旗を衝と上げて、と云うと、上げたその旗を横に、飜然と返して、指したと思えば、峰に並んだ向うの丘の、松の梢へ颯と飛移ったかと思う、旗の煽つような火が松明を投附けたように※と燃え上る。顔も真赤に一面の火になったが、遥かに小さく・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・「ああ、御苦労様――松明ですか。」「えい、松明でゃ。」「途中、山路で日が暮れますか。」「何、帰りの支度でゃ、夜嵐で提灯は持たねえもんだで。」中の河内までは、往還六里余と聞く。――駕籠は夜をかけて引返すのである。 留守に念も置かないで、そ・・・ 泉鏡花 「栃の実」
・・・ 空は晴れて、霞が渡って、黄金のような半輪の月が、薄りと、淡い紫の羅の樹立の影を、星を鏤めた大松明のごとく、電燈とともに水に投げて、風の余波は敷妙の銀の波。 ト瞻めながら、「は、」と声が懸る、袖を絞って、袂を肩へ、脇明白き花一片・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・朗快な太陽の光は、まともに庭の草花を照らし、花の紅紫も枝葉の緑も物の煩いということをいっさい知らぬさまで世界はけっして地獄でないことを現実に証明している。予はしばらく子どもらをそっちのけにしていたことに気づいた。「お父さんすぐ九十九里へ・・・ 伊藤左千夫 「紅黄録」
・・・という自祝の狂歌は縁組の径路を証明しておる。媒合わされた娘は先代の笑名と神楽坂路考のおらいとの間に生れた総領のおくみであって、二番目の娘は分家させて質屋を営ませ、その養子婿に淡島屋嘉兵衛と名乗らした。本家は風流に隠れてしまったが、分家は今で・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ 早稲田における坪内君の功蹟は、左も右くも文壇に早稲田派なるものがあって、相応に文学に貢献もすれば勢力も持ってる一事が明白に証明しておる。これ以上一語を加うる必要がない。早稲田大学は本と高田、天野、坪内のトライアンビレートを以て成立した・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
出典:青空文庫