・・・を筆頭として諸家の随筆が売り出されたが、これは寧ろ当時の文学の衰弱的徴候として後代は着目する性質のものなのである。 三 以上のような諸現象が、一部の作家の間に文学の危期としての警戒を呼び醒したのは極めて当然・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・二人は書架をのぞいたり開いた本をひろい読みしたりした。 かなり時が立っても千世子は見えなかった。「間が悪いものになっちゃったねえ。 まさか何ぼあの人だってあけっぱなしで他所へ出たんでもあるまいねえ。」「だが、暢気なんだからわ・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・ その一つの原因は、婦人作家の擡頭ということにつれて、諸家の見解がのべられているのに、何となく十分現実を掘り下げていない感銘を受けたからでもある。 婦人作家がこの一年に比較的数多い作品を発表もしたのは一般に高まった文学性への要求と婦・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・とだけかかれていて、問題がおこってからジャーナリズムの上に諸家がかかれているような、文学史的意義の評価、ヒューマニティーの問題としてローレンスがとらえた性のモメントは、二〇年前のヨーロッパの中流的偽善に何を投げたかという社会的意義などについ・・・ 宮本百合子 「「チャタレー夫人の恋人」の起訴につよく抗議する」
・・・と云いながら書架のわきに本を見て居た篤に、 只今お帰りになりました。と云って奥へそわそわと引っ込んで行った。 千世子は銘仙の着物に八二重の帯を低くしめたまんま書斎に行った。「どうもお待遠様。 いついら・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ ところで、転向作家についての諸家の意見は、ある特殊な動機をもつもの以外に、大たい雅量と常識とをもって対する態度であるが、どの文章の中にも二つの共通した点が、強調されてあった。それは、これまでいわゆる転向に関しての作品を発表した幾人かの・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・ 先頃、私は、或る同人雑誌が、作家と生活の問題について諸家の意見を求めているのを読んだことがあった。 作家が生活難をどう考え、どう解決してゆくかという問いであったと思う。それに答えている松田解子氏の言葉が心にのこった。松田さんは、作・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・ そこで本屋はあれこれを風呂敷につつんで行って見たところが、そこは新築したばかりの邸宅で、西洋間の応接室に堂々たる書架がついている。が、そこが空っぽで入れるものがないからという注文であったことが判明した。 本屋は早速見つくろって幾通・・・ 宮本百合子 「見つくろい」
・・・徳川氏の権力維持の努力とそれを繞る野心ある諸家の闘いは、やはり女性をさまざまの形でその仲介物とした。稗史の中でも徳川の大奥というものは伏魔殿とされた。沢山の隠れた罪悪と御殿女中の不自然な生活から来る破廉恥な行為とは、画家英一蝶に一枚の諷刺画・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・また前に挙げた紅葉等の諸家と俳諧での子規との如きは、才の長短こそあれ、その作の中には予の敬服する所のものがある。次にここに補って置きたいのは、翻訳のみに従事していた思軒と、後れて製作を出した魯庵とだ。漢詩和歌の擬古の裡に新機軸を出したものは・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫