・・・娘の手は白くて、それにしなやかな指が附いている。 この時ツァウォツキイが昔持っていて、浄火の中に十六年いたうちに、ほとんど消滅した、あらゆる悪い性質が忽然今一度かっと燃え立った。人を怨み世を怨む抑鬱不平の念が潮のように涌いて来た。 ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・ 少いときでも、ぐったり首垂れた鳩や山鳥が瞼を白く瞑っていた。父が猟に出かける日の前夜は、定って母は父に小言をいった。「もう殺生だけはやめて下さいよ。この子が生れたら、おやめになると、あれほど固く仰言ったのに、それにまた――」 ・・・ 横光利一 「洋灯」
このデネマルクという国は実に美しい。言語には晴々しい北国の音響があって、異様に聞える。人種も異様である。驚く程純血で、髪の毛は苧のような色か、または黄金色に光り、肌は雪のように白く、体は鞭のようにすらりとしている。それに海・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・湯気のためにほの白くなった檜の色も、湯気に包まれてほのかに輝く女の体も、この情趣を画面にあふれ出させるには十分だと言っていい。次にこの画は、女の裸体を描き得たことにおいて成功である。デッサンが狂っていない。肉づきにも無理がない。ことに女の体・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫