・・・朝夕忙しく、水門が白むと共に起き、三つ星の西に傾くまで働けばもちろん骨も折れるけれど、そのうちにまた言われない楽しみも多いのである。 各好き好きな話はもちろん、唄もうたえばしゃれもいう。うわさの恋や真の恋や、家の内ではさすがに多少の遠慮・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・ 夜が明けるまでこの家で休息することにして、一同はその銃をおろすなど、かれこれくつろいで東の白むのを待った。その間僕は炉のそばに臥そべっていたが、人々のうちにはこの家の若いものらが酌んで出す茶椀酒をくびくびやっている者もあった。シカシ今・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・「おきて往なんせ、東が白む。館々の鶏が啼く」と丘を下りてしまうと、歌うのは角の豆腐屋のお仙である。すべてこの島の女はよく唄を歌う。機を織るにも畠を打つにも、舟を漕ぐにも馬を曳くにも、働く時にはいつも歌う。朝から晩まで歌っている。行くとこ・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・浴室の戸を締め切ってスイッチを切ったあとの闇の中に夜明けまでの長い時間をどうしているのかわからないが、ガラス窓が白むころが来ると浴室の戸をバサバサ鳴らし、例の小鳥のような鳴き声を出して早く出してもらいたいと訴えるのが聞こえた。行って出してや・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・女中にどう変って居るか判らない位置を見られるのがいやで、白むまで起きて居る。 ○もっと小さいうち、始めて△のとき、茶屋の女将「何度おしやはった?」「三十六度」「あほ云わんとき! 三十六度! そんなことがあるかいな」「だっ・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
出典:青空文庫