・・・昔の封建時代は殿様が絶対的の権力をもっておりましたから、自分の臣下に対して生殺与奪の権があった。生かそうと殺そうと殿様のお気儘という状態なのです。ですからちょっと気に入らなければ、お小姓が茶碗を割ったといって首を斬られますし、お菊みたいにお・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・十九世紀の進化論者チミリャーゼフと夏の草花とに偏見なきソヴェトの赤坊の性を朗らかにむけながら。 並木通りには菩提樹の葉のかずほど赤坊がいた。いや、モスクワ市内の事務所役所のひける四時、四時後、九時頃まではよたよた歩きをする年頃からはじま・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ 素人でよく分らないけれども、ダアウィンが帰納的に種を観察し、進化を観察して行ったに対してファブルが、どこまでも実証的な足場を固執したのも面白い。だが、ファブルの或る意味での科学者としての悲劇は、寧ろそういうところにあったのではなかろう・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・後者への見とおしが、何かの意味でその中枢神経を貫いていなければ、結局はヒューマニズムそのものが生彩ある発動、深化、推進力を麻痺させられてしまうというような、質的な関係につながれているのではないだろうか。 困難な新進の道・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・ 当時文学が新しい素材の源泉とリアリズムの深化の契機を報告文学に求めようとしたことと、そこに見出された不満との関係は、その数年来文学が転々して来た動向から見て必然な結果のあらわれであったといえよう。報告文学がそのものとして独自の人間記録・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・彼以後の七十八年間の人類文明の貴重な進歩は、彼によって印された家族に関する研究の第一歩を、いかなる具体的・現実的研究にまで推し出して来ているかという、正確にしてよろこばしき知識に照りかえされて、初めて真価を発揮するものと思う。 現代の婦・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
・・・ 日和見主義との妥協なき闘争の階級的意義を理解することなしに、同志小林の不撓な闘争の真価を理解することは不可能である。日和見主義を克服することなしには同志小林の復讐を誓うということさえ実践的にはあり得ないのである。 ・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・封建時代に、君主にその非行を直言しようと決心した臣下は、いつも切腹を覚悟しなければならなかった。「直諫の士」が戦場の勇士よりも、ある場合にはより勇気ある武士とされた理由である。 日本の人民は、東條時代を通じて、もっとも非合理野蛮な侵略主・・・ 宮本百合子 「地球はまわる」
・・・ 世界中が俺の臣下のように畏こまって並んでいる。 今こうやって、鳥より楽に、素晴しく空を歩いている俺、たった一人のこの俺! スースー……スースー…… 王者になったような心持でいる六をのせて、綱はだんだん山奥へ入って行った。・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・芸術の真価はそこにあるのではございますまいか。 そういう意味に於て、私は「霊魂の赤ん坊」を忘れることが出来ません。 あの御作の裡には、貴女でなければ持得ない芸術的表現と、価値の人格化が行われていると存じます。心を動かさずには置きませ・・・ 宮本百合子 「野上彌生子様へ」
出典:青空文庫