・・・民衆を基礎として最後の革命を起こしたと称しているけれども、ロシアにおける民衆の大多数なる農民は、その恩恵から除外され、もしくはその恩恵に対して風馬牛であるか、敵意を持ってさえいるように報告されている。真個の第四階級から発しない思想もしくは動・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
『何か面白い事はないか?』『俺は昨夜火星に行って来た』『そうかえ』『真個に行って来たよ』『面白いものでもあったか?』『芝居を見たんだ』『そうか。日本なら「冥途の飛脚」だが、火星じゃ「天上の飛脚」でも演るんだろう?・・・ 石川啄木 「火星の芝居」
・・・ 或時も、また雪のために一日形を見せないから、……真個の事だが案じていると、次の朝の事である。ツィ――と寂しそうに鳴いて、目白鳥が唯一羽、雪を被いで、紅に咲いた一輪、寒椿の花に来て、ちらちらと羽も尾も白くしながら枝を潜った。 炬燵か・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・本の美術品と云えば、直ぐ茶器を持出すの事実あるを知りながら、茶の湯なるものが、如何に社会の風教問題に関係深きかを考えても見ないは甚だ解し難き次第じゃないか、乍併多くは無趣味の家庭に生長せる彼等は、大抵真個の茶趣味の如何などは固より知らないの・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・「そして真個にその家が出来たのかね」と井山は又しょぼしょぼ眼を見張った。「イヤこれは京都に居た時の想像だよ、窓で気を揉んだのは……そうだそうだ若王寺へ散歩に往って帰る時だった!」「それからどうしました?」と岡本は真面目で促がした・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 是れ放言でもなく、壮語でもなく、飾りなき真情である、真個に能く私を解し、私を知って居た人ならば、亦た此の真情を察してくれるに違いない、堺利彦は「非常のこととは感じないで、何だか自然の成行のように思われる」と言って来た、小泉三申は「幸徳・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・ 北村君の文学生活は種々な試みを遣って見た、準備時代から始まったものではあるが、真個に自分を出して来るようになったのは、『蓬莱曲』を公けにした頃からであろう。当時巌本善治氏の主宰していた女学雑誌は、婦人雑誌ではあったが、然し文学宗教其他・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・スバーが、それを噛めるようにしてやる そうやって長いこと坐り、釣の有様を見ている時、彼女は、どんなにか、プラタプの素晴らしい手伝い、真個の助けとなって、自分が此世に只厄介な荷物ではないことを証拠だてたく思ったでしょう! けれども、何もす・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・お袋は男に脅迫されて箱根に駈落しました。お袋は新子と名を改めて復帰致しました。ぼくの物心ついた頃、親爺は貧乏官吏から一先ず息をつけていたのですが、肺病になり、一家を挙げて鎌倉に移りました。父はその昔、一世を驚倒せしめた、歴史家です。二十四歳・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・仕えてはじめて草畧の茶を開き、この時よりして茶道大いに本朝に行われ、名門豪戸競うて之を玩味し給うとは雖も、その趣旨たるや、みだりに重宝珍器を羅列して豪奢を誇るの顰に傚わず、閑雅の草庵に席を設けて巧みに新古精粗の器物を交置し、淳朴を旨とし清潔・・・ 太宰治 「不審庵」
出典:青空文庫