・・・しかし空想は、想像となり、想像は、思想にまで進展し、やがて、それは内部的な一切の衝動のあらわれとなって、外面に向って迫撃する。これは、外的条件が、内的の力を決定するのでない。 こゝに、自由の生む、形態の面白さがあり、押えることのできない・・・ 小川未明 「常に自然は語る」
・・・の活動を説き、「生」そのものの事実性が、知識の確実性の根拠であるとした。カントのアプリオリの如き不毛の主知的観念に知識の妥当性があるのではない。具体的、直接なる体験は「生」の進展して止まぬ発動である。彼はいった。「ロックや、ヒュームやカント・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・そして名宛の左側の、親展とか侍曹とか至急とか書くべきところに、閑事という二字が記されてあった。閑事と表記してあるのは、急を要する用事でも何んでも無いから、忙がしくなかったら披いて読め、他に心の惹かれる事でもあったら後廻しにしてよい、という注・・・ 幸田露伴 「野道」
・・・また、伊藤たちの恋愛が、どんな具合いに進展しているのか、それも、ちっとも知りたくない。うん、この焼酎はなかなかいい。君、君、もう一ぱいくれ。それから、水をくれ。おうい、おかみさん、ここへも何か食べるものをくれ。しかし、少くとも僕は、他人の夫・・・ 太宰治 「女類」
・・・或る外国の神学者は、旧約以降のサタン思想の進展に就いて、次のように報告している。すなわち、「ユダヤ人は、長くペルシャに住んでいた間に、新らしい宗教組織を知るようになった。ペルシャの人たちは、其名をザラツストラ、或いはゾロアスターという偉大な・・・ 太宰治 「誰」
・・・ 録音と発音の機械的改良が進展して来る一方でまたトーキーファンの聴覚が訓練されて来れば、発声映画の可能性はさらに拡張されるであろう。点滴の音によってその室の広さを感じ、雷鳴の響きによって山の近さを感じることも可能になるであろう。 と・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・将来の進展に期待したい。ただし、このトーキー器械の科学的機構は未完成である。言語が聞き取れないために簡潔な筋のはこびが不明瞭になる場所のあるのは惜しい。 九 カルネラ対ベーア 拳闘というものはまだ一度も実見したこ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・そうして観者の頭の中の映画に強いアクセントを与え、同時に次の進展への衝動と指針を与える。これは驚くべき芸術であるとも言われなくはない。これはともかくも一つの問題である。そうしてこの問題を追究すればその結果は必ず映画製作者にとってきわめて重要・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・もっと一般に言えば宇宙のエントロピーが次第に減少し、世界は平等から差別へ、涅槃から煩悩へとこの世は進展するのである。これは実に驚くべき大事件でなければならない。もっと言葉を変えて言えば、すべての事がらは、現世で確率の大きいと思われるほうから・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・こういう自負心のおかげで科学が進歩し社会も進展するのかもしれない。 池にはめだかとみずすましがすんでいる。水中のめだかの群れは、頭上の水面をみずすましが駆け回っても平気で泳いでいる。この二つの動物の利害の世界は互いに交差しないと見える。・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
出典:青空文庫