・・・色々記入する書式の中の宗教という項に神道と書いたら、それはどういう宗教だと聞かれて困った。ドイツ語がよく分らなくては講義を聴くのに困りはしないかと聞くから、なにじきに上手になりますと答えたら Na ! Sehen Sie mal zu. と・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・その同じ傾向は生物に関する科学の方面へも滲透して行った。そして「自然は簡単を愛す」と云ったような昔の形而上的な考えがまだ漠然とした形である種の科学者の頭の奥底のどこかに生き残って来た。 しかしそういう方法によって進歩して来た結果はかえっ・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・ 次には大洋の水量の恒久と関係して蒸発や土壌の滲透性が説かれている。 火山を人体の病気にたとえた後に、物の大きさの相対性に論及し、何物も全和に対しては無に等しいと宣言している。 また火山の生因として海水が地下に滲透し、それが噴火・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・けれども私が、脳振盪を起して倒れたとすれば、諸君の笑は必ず倫理的の同情に変ずるに違いありますまい。こういう風に或程度まで芸術と倫理と相離るる部分はあるけれども、最後または根柢には倫理的認容がなければならぬのであります。従って小説戯曲の材料は・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・ 何故かって、タンクと海水との間の、彼女のボットムは、動脈硬化症にかかった患者のように、海水が飲料水の部分に浸透して来るからだった。だから長い間には、タンクの水は些も減らない代りに、塩水を飲まねばならなくなるんだ。 セイラーが、乗船・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・而してその教の種類には、儒もあり、仏もあり、また神道、耶蘇もあり、たいてい同様のものならん。されども、日本には古来、儒者の道、もっとも繁昌したるゆえに、まず慣れたるものを用うるとして、かりに儒にしたがうも、今の儒者をしてそのまま得意の四書五・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・ 今その然る所以の理由を述べんに、婦人の地位の低きとは、男子に対して低きことなれば、これを引上げて高き処に置かんとするに当たり、第一着に心頭に浮ぶものは、とにかくに、今の婦人をして今の男子の如くならしめんとするの思想なるべし。然り而して・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・確かに重大な、人間の霊肉を根本から震盪するものではあっても、人間の裡にある生活力は多くの場合その恋愛のために燃えつきるようなことはなく、却って酵母としてそれを暖め反芻し、個人の生活全般を豊富にする養液にしてしまいます。 また恋愛は、独特・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・つまり、その観念の発生は女の内部にかかわりなく外から支配的な便宜に応じてこしらえられたものだのに歴史の代を重ねるにつれてその時から狭められた生活のままいつか女自身のものの感じかたの内へさえその影響が浸透してきていて、まじめに生きようとする女・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・これからつくろうとする新党の性格にふれて、十四日、楢橋氏は首相に向い次のような意味の話をした。「あなたは三菱の婿であり、これまで資本家の代表であるかもしれないが、これからの日本を再建するのは労働力以外にはない。住んでいるのは今の家でもいいが・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
出典:青空文庫