・・・ 古来、支那・日本人のあまり心付かざることなれども、人間の天性に自主・自由という道あり。ひと口に自由といえば我儘のように聞こゆれども、決して然らず。自由とは、他人の妨をなさずして我が心のままに事を行うの義なり。父子・君臣・夫婦・朋友、た・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・ またそのなかでいっしょになったたくさんのひとたち、ファゼーロとロザーロ、羊飼のミーロや、顔の赤いこどもたち、地主のテーモ、山猫博士のボーガント・デストゥパーゴなど、いまこの暗い巨きな石の建物のなかで考えていると、みんなむかし風のなつか・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・多くの人々が、この問題の本質上、今日ではもう個人的解決の時期を全くすぎていて、これは人民的規模において、男女共通に、共通の方法に参加して、各種の管理委員会をこしらえて、自主的な圧力で改善してゆくことに決心したら、どんなに早く、解決の緒につく・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・もし、この広大な稲田全体が、いつわりない農民の生産として、それを作る農民の生活にもかえってゆくものならば、どうして、秋田、山形の農家はこんなに小さい屋根屋根の下にかがまっていて、しかも地主らしい堂々たる家構が見当らないのだろう。一坪でも、そ・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
・・・ブルジョア・地主の工場のように、社長、重役とか主任とか監督とか、威張って搾るばかりが仕事の者は、ソヴェト同盟の工場のどこの隅をさがしてもいない。もう一つのコムソモール・ヤチェイカというのは、共産青年同盟細胞という意味である。 私は二つめ・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・そこへ巧みにつけ入って、ドイツ民族の優秀なことや、将来の世界覇権の夢想や、生産の復興を描き出したヒトラー運動は、地主や軍人の古手、急に零落した保守的な中流人の心をつかんで、しだいに勢力をえ、せっかくドイツ帝政の崩壊後にできたワイマール憲法を・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・働いて生きてゆかなければならないということを理解する人民の女性としてのその心から自主的な協力が生れるし、自主的な協力の理解をもった女性のところへこそ、はじめて浮気でない、いわゆるエティケットでない協力ということをまじめに理解した男性が見出さ・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・の世界観は、現実の問題として、階級対立の社会にあっては支配階級のイデオロギーの侵害を多く受けているものであり、特に日本のように封建性の重いきずなが男女を圧しているところでは、女の性的受動性、男に対する自主的な選択権が隷属的に考えられる習俗を・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ファシズムに反対するという共通の線でむすばれ、民族とその自主的文化のためにともに闘わなければならないという自覚でむすばれている人々がどんなにふえてきているか。このことは過日の非日委員会法に反対して、いわゆる政治的でない二十七名の教授連が声明・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・は、様々な偶然とそれに対して自主的であるはずの自分の生涯という問題にふれている。しかしこの作品の範囲では、少年である主人公が、厄介な偶然を自覚して苦しみを感じはじめるこころまでがかかれた。「我に叛く」は、その後にかかれた長篇「伸子」の短・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
出典:青空文庫