・・・という自責的な表現でうらから後家のがんばりに不十分に触れてゆくしかなかった。「思いあがり」という自責的なひとことのなかに、女として作家として積極であった多くのプラスをのみこみながら。戦争とファシズムの力とで人間はどんなに非人道的に扱われて来・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・この観念と並立していて、私という人物がこれまで中途半端にしか生活もせず考えもせずに暮して来たという自嘲自責で身をよじっているとき、内心その姿に手をかけてなぐさめてとなり、合理づける囁きとして存在している、もう一つの観念がある。 それは、・・・ 宮本百合子 「観念性と抒情性」
・・・又は、後半の狂言風な可笑しみで纏め、始めの自責する辺などはごくさらりと、折角、一夜を許し、今宵の月に語り明かそうと思えば、いかなこと、この小町ほどの女もたばかられたか、とあっさり砕けても、或る面白味があっただろう。 行き届いて几帳が立て・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・私は仕事部屋に、寒暖計だの湿度計だの磁石だのよく切れるハサミ、ナイフだの欲しい。今は寒暖計だけ。こういう程度に直接生活的な器は何だか生活慾を刺戟していい心持です。ところが時計はチクタクの大きく聴えるのなど大きらいです。あの夏になると眠りがち・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・をして色んな人に聞き合せて南から決死隊で生還したという人の準備を聞くことが出来て、今日はどうぞこの包みが間に合うように、と願いながら緑茶を小さいカンにつめたり、かつお節をけずったり、紀さんに頼んで夜光磁石や、天文図やウィスキーの瓶詰などを陸・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ ピオニェール分隊が再び行進曲によって去り、区婦人代表員がクラブへ記念品としてレーニンの肖像画を贈呈し終ると、議長が自席で立ち上った。 ――タワーリシチ、これで今夜私のところに記名表の来ているだけの演説は終りました。誰かもっと話した・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・この日の午前の法廷では、前回に引つづき公訴を取消す要求が、行われたのであるが、検事連は、自席に立ちあがり、十五回にわたって鈴木特別弁護人の発言を妨害した。執拗に裁判長にくり下る勝田検事に裁判長「発言にたいする異議はいいけれども、発言している・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・の偉大な人間及芸術家の生活現象に密林はおそろしいほど鬱蒼としているものだから、そのディテールの中で迷いこんでしまわないためには、その密林をとおして各々の客観的な歴史的な位置を知らせる、云ってみれば生活磁石のようなものが求められて来る。この気・・・ 宮本百合子 「『トルストーイ伝』」
・・・恐ろしいことではないか、自分の此から書こうとする黄銅時代は、更に甦り、強められた自責の念と、謙譲な虚心とによって書かれなければならないのだ。 四月二十八日 今日、福井の方から転送されて来た国男の手紙を見る。 仮令感傷的だと云・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・ ところが事件の十五日夜アリバイがはっきりしているために「やや焦燥の色濃い東京地検堀検事正、馬場次席検事は」「教唆罪もあり得る」と語っている。検事のこの言葉は「あり得る」あらゆる罪名をもって飯田、山本両氏を犯人にしようとしているような感・・・ 宮本百合子 「犯人」
出典:青空文庫