・・・ 谷あいの土地であるから地形により数町はなれると風向がよほどちがう場合が多い。そういう場合に、いつでもまたどこでも、その時その場所の風に頭を向けている。時刻がだいたい同じなら太陽の方向は同じであると考えていいのであるから、太陽の影響は、・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・ 山裾の小川に沿った村落の狭い帯状の地帯だけがひどく損害を受けているのは、特別な地形地質のために生じた地震波の干渉にでもよるのか、ともかくも何か物理的にはっきりした意味のある現象であろうと思われたが、それは別問題として、丁度正にそういう・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・ 地殻の皺曲や割れ目やすべり面の週期性に因って第二次的に決定される地形の週期性のあること、それによってまたあらゆる天然ないし人間的な週期性が現われることも注意に値いする。 河流の蛇行径路については従来いろいろの研究があり、かの有名な・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・とある谷を下った所で、曲がりくねった道路と、その道ばたに榛の木が三四本まっ黄に染まったのを主題にして、やや複雑な地形に起伏するいろいろの畑地を画布の中へ取り入れた。 帰りに汽車の窓から見た景色は行きとは見違えるほどいっそう美しかった。す・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・九月二日 曇 朝大学へ行って破損の状況を見廻ってから、本郷通りを湯島五丁目辺まで行くと、綺麗に焼払われた湯島台の起伏した地形が一目に見え上野の森が思いもかけない近くに見えた。兵燹という文字が頭に浮んだ。また江戸以前のこの辺の景色・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・一体、あのような込み入った面白い地形がどうして出来たかという事は地質学者の議論の種になっているのです。また瀬戸内海の沿岸では一体に雨が少なかったり、また夏になると夕方風がすっかり凪いでしまって大変に蒸暑いいわゆる夕凪が名物になっております。・・・ 寺田寅彦 「瀬戸内海の潮と潮流」
・・・ここから先の地形が、なんとなく横浜大船間の丘陵起伏の模様と似通っていた。とある農家の裏畑では、若い女が畑仕事をしているのを見つけた。完全に発育している腰から下に裾の広がった袴を着けて、がんじょうな靴をはいて鍬をふるっている、下広がりのスタビ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
「当世物は尽くし」で「安いもの」を列挙するとしたら、その筆頭にあげられるべきものの一つは陸地測量部の地図、中でも五万分一地形図などであろう。一枚の代価十三銭であるが、その一枚からわれわれが学べば学び得らるる有用な知識は到底金・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・ 今年はある目的があって、陸地測量部五万分一地形図を一枚一枚調べて河川の流路を青鉛筆で記入し、また山岳地方のいわゆる変形地を赤鉛筆で記入することをやっている。河の流れをたどって行く鉛筆の尖端が平野から次第に谿谷を遡上って行くに随って温泉・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・ 気候の次に重要なものは土地の起伏水陸の交錯による地形的地理的要素である。 日本の島環の成因についてはいろいろの学説がある。しかし日本の土地が言わば大陸の辺縁のもみ砕かれた破片であることには疑いないようである。このことは日本の地質構・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
出典:青空文庫