・・・そのそばの壁には、こしらえたばかりの立派な服が、上下そろえて釘にかけてありました。 ウイリイは、さっそく、その服を着て見ました。そうすると、まるで、じぶんの寸法を取ってこしらえたように、きっちり合いました。それから、馬に乗って、あぶみへ・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・ほかの狐が箱にはいって城下の人形屋から来て、ふたたび店に立ったのはついこの間の事である。今度のは大きさも鼬ぐらいしかないし、顔も少し趣を変えるように注文したのであろうけれど、「なんぼどのような狐を拵えてきたところで、お孝ちゃんの顔が元の・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・ その小都会から更に十里はなれた或る城下まちの高等学校にはいってからは、少年のお洒落も、のびのびと発展いたしました。発展しすぎて、やはり珍妙なものになりました。マントを三種類つくりました。一枚のマントは、海軍紺のセル地で、吊鐘マントであ・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・という一天使に浄化する事がどうしても出来ません。 私のいまの仕事は、旧約聖書の「出エジプト記」の一部分を百枚くらいの小説に仕上げる事なのです。私にとっては、はじめての「私小説」で無い小説ですが、けれども、やっぱり他人の事は書けません。自・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ 私は北方の城下まちの高等学校の生徒である。遊ぶことが好きなのである。けれども金銭には割にけちであった。ふだん友人の煙草ばかりをふかし、散髪をせず、辛抱して五円の金がたまれば、ひとりでこっそりまちへ出てそれを一銭のこさず使った。一夜に、・・・ 太宰治 「逆行」
・・・でも、あたしの取柄は、アンマ上下、それだけじゃないんですよ。それだけじゃ、心細いわねえ。もっと、いいとこもあるんです」 素直に思っていることを、そのまま言ってみたら、それは私の耳にも、とっても爽やかに響いて、この二、三年、私が、こんなに・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・その地球の周囲、九万里にして、上下四旁、皆、人ありて居れり。凡、その地をわかちて、五大州となす。云々。 それから十日ほど経って十二月の四日に、白石はまたシロオテを召し出し、日本に渡って来たことの由をも問い、いかなる法を日本にひろめよ・・・ 太宰治 「地球図」
・・・高等学校の所在するその城下まちから、浪のいる筈のAという小都会までは、汽車で一時間くらいで行ける。私は出掛けることにした。 二日つづきの休みのときに出掛けた。私は、高等学校の制服、制帽のままだった。謂わば、弊衣破帽である。けれども私は、・・・ 太宰治 「デカダン抗議」
・・・の一家、と言いましても、母はその七年まえ私が十三のときに、もう他界なされて、あとは、父と、私と妹と三人きりの家庭でございましたが、父は、私十八、妹十六のときに島根県の日本海に沿った人口二万余りの或るお城下まちに、中学校長として赴任して来て、・・・ 太宰治 「葉桜と魔笛」
・・・に、あの人はまあ何と思っているのやら、剛情、とでもいうんでしょうかねえ、素直なところが一つも無くて、あれで内心は、ご自分の出た黒石の山本の家が自慢で自慢でならないらしく、それはまあ黒石の山本の家は、お城下まちの地主さんで、こんな田舎の漁師ま・・・ 太宰治 「春の枯葉」
出典:青空文庫