・・・ とばかりで、上目でじろりとお立合を見て、黙然として澄まし返る。 容体がさも、ものありげで、鶴の一声という趣。もがき騒いで呼立てない、非凡の見識おのずから顕れて、裡の面白さが思遣られる。 うかうかと入って見ると、こはいかに、と驚・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・ と例の渋い顔で、横手の柱に掛ったボンボン時計を睨むようにじろり。ト十一時……ちょうど半。――小使の心持では、時間がもうちっと経っていそうに思ったので、止まってはおらぬか、とさて瞻めたもので。――風に紛れて針の音が全く聞えぬ。 そう・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・おはまはじろり悪口いう方を見たがだれだかわからなかった。おとよさんは、どういう心持ちかただだまってうつむいたままわき目も振らずに歩いてる。姉は突然、「おとよさん、家ではおかげで明後日刈り上げになります。隣ではいつ……」「わたしとこで・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・とも出来ないのであった。 酒を飲まない奴は飲む者に凹まされると決定っているらしい。今の自分であってみろ! 文句がある。「母上さん、そりゃア貴女軍人が一番お好きでしょうよ」とじろりその横顔を見てやる。母のことだから、「オヤ異なこと・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ やはり寝ながらじろりッと見て、「気のぬけたラムネのように異うすますナ、出て行った用はどうしたんだ。「アイ忘れたよ。「ふざけやがるなこの婆。「邪見な口のききようだねえ、阿魔だのコン畜生だの婆だのと、れっきとした内室をつか・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・鏡の中のI氏は、実物の筆者のほうを時々じろりじろりとながめていた。舞台で見る若さとちがって、やはりもうかなり老人という感じがする。自分のほうでもひそかにこの人の有名な耳と鼻の大きさや角度を目測していた。 この人の芝居でいちばん自分の感心・・・ 寺田寅彦 「試験管」
出典:青空文庫