・・・毎日の新聞広告だけから推算しても一年間に現われる書物の数は数千あるいは万をもって数えるであろう。そうしてその増加率は年とともに増すとすれば遠からず地殻は書物の荷重に堪えかねて破壊し、大地震を起こして復讐を企てるかもしれない。そういう際にはセ・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ 水産生物の種類と数量の豊富なことはおそらく世界の他のいかなる部分にもたいしてひけを取らないであろうと思われる。これは一つには日本の海岸線が長くて、しかも広い緯度の範囲にわたっているためもあるが、さらにまたいろいろな方向からいろいろな温・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・箱根は二十年も昔水産関係の用向きで小田原へ行ったついでに半日の暇を盗んで小涌谷まで行ったのと、去年の春長尾峠まで足を使わない遠足会の仲間入りをした外にはほとんど馴染のない土地である。それで今度は未見の箱根町まで行って湖畔で昼飯でも食って来よ・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・ 我邦の産業中で農業に劣らず重要な水産漁業の方面でも物理学的研究の必要はだんだんに増して来るようである。これには先ず海洋それ自身の研究の必要な事は勿論である。海洋に関する物理的事項の重なるものについては近頃出版した拙著『海の物理学』にそ・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・それで私は三人の同窓の死だけから他のものの死の機会を推算するような不合理をあえてしようとは思わない。 そうかと云って私はまた全くそういう推算の可能性を否定してしまうだけの証拠も持ち合せない。 例えばある家庭で、同じ疫痢のために二人の・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・しかし、いわゆる科学的常識というものからくる漠然とした概念的の推算をしてみただけでも、それが如何に多大な分量を要するだろうかという想像ぐらいはつくだろうと思われる。いずれにしても、暴徒は、地震前からかなり大きな毒薬のストックをもっていたと考・・・ 寺田寅彦 「流言蜚語」
・・・しかしあとでよく考えてみると、物理でもやはりプランクトンと同様なものを、水産学におけると同様に取り扱っていることは少しも珍しくない。つい近くまでわれわれは鉄の弾性とか磁性とかいうことを平気で言って、その「鉄」を作る微晶や固溶体のプランクトン・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
自分の出生地は高知県で、始め中学の入学試験に応じたのは十四の年、ちょうど高等三年生の時であった。その中学というのは今の高知県立第一中学である。日ごろからだがあまり健康のほうではなく、それに勉強もろくろくせなかったためだろう・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
・・・とすると御両君のうちいずれへか衝突の尻をもって行かねばならん、もったいなくも一人は伯爵の若殿様で、一人は吾が恩師である、さような無礼な事は平民たる我々風情のすまじき事である、のみならず捕虜の分際として推参な所作と思わるべし、孝ならんと欲すれ・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・次三男出身の血路は、ただ養子の一方のみなれども、男児なき家の数は少なくして、次三男出生の数は多く、需要供給その平均を得ずして、つねに父兄の家に養われ、ついには二世にして姪の保護を蒙りて死する者少なからず。これを家の厄介と称す。俗にいわゆるす・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
出典:青空文庫