・・・だから先日も新聞にあったように、息子の妻の入籍を親が許さなかったため、その息子の戦死と孫の出生でかえって父母の歎きが深いというような実例が生じる。改正案では、子が婚姻をするのは年齢を問わず、父母、祖父母の同意がいることになり、未成年者がそれ・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・ 列座の者の中から、「弱輩の身をもって推参じゃ、控えたらよかろう」と言ったものがある。長十郎は当年十七歳である。「どうぞ」咽につかえたような声で言って、長十郎は三度目に戴いた足をいつまでも額に当てて放さずにいた。「情の剛い奴じゃ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 父才八は永禄元年出生候て、三歳にして怙を失い、母の手に養育いたされ候て人と成り候。壮年に及びて弥五右衛門景一と名告り、母の族なる播磨国の人佐野官十郎方に寄居いたしおり候。さてその縁故をもって赤松左兵衛督殿に仕え、天正九年千石を給わり候・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・ 私はその出生を予期するのが根のない空想だとは思わない。 現戦争はヨーロッパの人民全体を、戦場にあると否とにかかわらず、魂の底から震駭させた。この深刻な経験が結晶せずに終わるだろうと信ずるのは、世界のすみにあって戦争の苦しさをのんき・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫