・・・ 船長、機関長、を初めとして、水夫長、火夫長、から、便所掃除人、石炭運び、に至るまで、彼女はその最後の活動を試みるためには、外の船と同様にそれ等の役者を、必要とするのであった。 金持の淫乱な婆さんが、特に勝れて強壮な若い男を必要とす・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・ええボートはきっと助かったにちがいありません、何せよほど熟練な水夫たちが漕いですばやく船からはなれていましたから。」 そこらから小さないのりの声が聞えジョバンニもカムパネルラもいままで忘れていたいろいろのことをぼんやり思い出して眼が熱く・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・万一あなたの身に不慮のことがあったとき、指紋さえあれば、すぐあなたの身元がわかりますから、と云われて、うれしい世の中と思うひとがあるだろうか。水夫は、水難し、漂着したときの目じるしに、いろいろ風の変った入れずみをする。だからと云って世界周遊・・・ 宮本百合子 「指紋」
・・・ さて、ゴーリキイは、製図師のところを出てから、今度は月七留の給料で又ヴォルガ通いの汽船ペルミ号の炊夫をやった。この船には嘗てのスムールイとは全く違って、しかもゴーリキイの心を魅した一人の男がいた。ヤコヴという胸幅の広い角張った火夫・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ このスムールイは、呆れる程ウォツカを飲むが酔っぱらったためしがなかった。水夫長も料理人も、船じゅうのものがこの男の怪力と一種変った気風に一目置いていた。夕方、スムールイが巨大な体をハッチに据えて、ゆるやかに流れ去って行くヴォルガの遠景・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・スムールイは、一度ならずその嘘のような腕力をふるって水夫や火夫の破廉恥で卑劣ないたずらから少年ペシコフをまもったのであった。 十歳の時、ゴーリキイは詩のようなものをつくり、手帖に日記を書きはじめた。日々の出来事と本から受ける灼きつくよう・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫