・・・すると僕は、直覚力も推理力も甚円満に発達していると云うのだから大したものである。もっともこれは、あとで「動物性も大分あります。」とか何か云われたので、結局帳消しになってしまったらしい。 大野さんが帰ったあとで湯にはいって、飯を食って、そ・・・ 芥川竜之介 「田端日記」
・・・曰く、「あらゆる行為の根底であり、あらゆる思索の方針である智識を有せざる彼等文芸家が、少しでも事を論じようとすると、観察の錯誤と、推理の矛盾と重畳百出するのであるが、これが原因を繹ねると、つまり二つに帰する。その一つは彼等が一時の状態を永久・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・これに反して数学的推理の能力は早くから芽を出し初めた。計算は上手でなくても考え方が非常に巧妙であった。ある時彼の伯父に当る人で、工業技師をしているヤーコブ・アインシュタインに、代数学とは一体どんなものかと質問した事があった。その時に伯父さん・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・というと、「驚くべき推理の力だな」と冷やかす。 牢屋でフォーサイスが敵将につかみかかって従者に打ちのめされる。敵将が「勇気には知恵が伴なわなければだめだよ」といって得意になる。敵将が去って後に仲間が「ばかやろう」とののしるのには答えない・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・やはり観察と分析と推理の正確周到を必要とするのは言うまでもないことである。 つまり、頭が悪いと同時に頭がよくなくてはならないのである。 この事実に対する認識の不足が、科学の正常なる進歩を阻害する場合がしばしばある。これは科学にたずさ・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・そういう吟味が充分に行き届いた論文であれば、それを読む同学の読者は、それを読むことによって作者の経験したことをみずから経験し、作者とともに推理し、共に疑問し、共に解釈し、そうして最後に結論するものがちょうど作者の結論と一致する時に、読者は作・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・でなければならないという結論に達した、その推理の径路を一冊の論文に綴って、それにこの植物のさくようまで添えたものを送ってよこされた人があって、すっかり恐縮してしまったことがあった。こうなると迂闊に小品文や随筆など書くのはつつしまなければなら・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・ 自分はできるだけ根拠なき臆断と推理を無視する空想を避けたつもりである。しかし行文の間に少しでも臆断のにおいがあればそれは不文の結果である。推理の誤謬や不備があればそれは不敏のいたすところである。このはなはだ僭越と考えらるべき門外漢の一・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・吾人普通の感官を備えた人間がこのような相違に気のつかぬのは遺伝や長い間の経験によって、外界の標準を外界に置いて非常に複雑な修練と無意識的の推理を経て来た結果にほかならぬのであろう。 吾人の理性に訴えて描き出す幾何的の空間、至るところ均等・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・上野の停車場及倉庫の如きは其の創設の当初に於て水利の便ある秋葉ヶ原のあたりを卜して経営せられべきものであった。然し新都百般の経営既に成った後之を非難するは、病の膏盲に入った後治療の法を講ぜんとするが如きものであろう。東京の都市は王政復古の後・・・ 永井荷風 「上野」
出典:青空文庫