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・・・ おおこれは一つの小さい銃口であった。生きながら埋められた生命が無限の思いを惻々と息づいている口である。目をとめたものは思わず心を動かされ、その訴えることの深い可憐なる銃口を撫でずにはいられない。ひとりでの力につき動かされてしている自分・・・
宮本百合子
「女靴の跡」
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・・・ それは一ツの銃口であった。生きながら姿で埋められた一人の兵卒の銃口が叢が茂った幾星霜の今日もなお現れていて、それを眺めた人々は思わずも惻隠の情をうごかされ、恐らくはそこに膝をついて、その銃口を撫でてやるのであろう。 茫々としたいら・・・
宮本百合子
「金色の口」