・・・そうして過渡期の日本の社会道徳にそむいて、私の歩を相互に進めることなしに、意志の重みをはじめから監督者たる父母に寄せかけた彼の行ないぶりを快く感じた。そこで彼の依頼を引き受けた。 さっそく妻をやって先方へ話をさせてみると、妻は女の母の挨・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・なぜそんな所へ行くのかと聞いたら別にたいした意味もないが、ただ口を頼んでおいた先輩が、行ったらどうだと勧めるからその気になったのだと答えた。それにしてもHはあんまりじゃないか、せめて大阪とか名古屋とかなら地方でも仕方がないけれどもと、自分は・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・「せっかく、姉さんも、ああ云って勧めるものだから、どうだろう、いっそ、そうしたら」と碌さんが圭さんの方を向く。圭さんは相手にしない。「ここも阿蘇だって、阿蘇郡なんだろう」とやはり下女を追窮している。「ねえ」「じゃ阿蘇の御宮ま・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・この二つの事実を左右の翼として、論理的に一段の交渉を前方に進めるならば、我々は局外者に向って興趣ある一種の結論を提供する事が出来る。その結論とはこうである。―― わが小説界は偉大なる一、二の天才を有する代りに、優劣のしかく懸隔せざる多数・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・非常な不健康や欠乏は、一時も早く改善され、互に、終局の目標に進めることが大切である。 広くもない地球の上で、幾千万と云う人間が、飢え渇え、獣物にまで成り下っている有様は、万の王宮を以て償えないディスグレースではないだろうか。〔一九二二年・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・ ぐずぐずして居ると突飛ばされる、早い足なみの人波に押されて広場へ出ると、首をひょいとかたむけて、栄蔵の顔をのぞき込みながら、揉手をして勧める車夫の車に一銭も値切らずに乗った。 法外な値だとは知りながら、すっかり勝手の違った東京の中・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・憲法審議のための委員会に一人二人の婦人代議士が出席していたとしても、彼女達は具体的に人民憲法を作るように審議を進めることはしませんでした。改正憲法の中に奇妙な特殊性として天皇が存在しつづけていることを考えることはしませんでした。「政治は台所・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・ 五ヵ年計画はソヴェト鋳鉄生産額を世界第三位に、石炭採掘量において世界第四位に進めるばかりではありません。全ソヴェトの生産に従事する勤労者の平均賃金は五ヵ年計画の終りにおいて七一パーセント増すだろう。国家計画部は…… 樺色の上着の肩で音・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・日本の民主主義勢力が日本の民主化をおし進める努力とその成果との対照なしにいえないことです。 本年度は勤労人民の中からの文化活動は、経済的な苦痛を打開しようとするたたかいとともに活溌になります。組織的にいえば、組合の文化部は前年度の経験に・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
・・・ソヴェトの新しい音楽家は、その大きな遺産をどう利用し、社会主義的な社会の感覚にふさわしい新形式へ進めるかという点で、大きな課題を与えられているわけなのだ。 第一国立オペラ舞踊劇場でも、オペラの長い幕間には、本を出してよんでいるソヴェト市・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
出典:青空文庫