-
・・・燈許へ、あの縮緬着物を散らかして、扱帯も、襟も引さらげて見ている処へ、三度笠を横っちょで、てしま茣蓙、脚絆穿、草鞋でさっさっと遣って来た、足の高い大男が通りすがりに、じろりと見て、いきなり価をつけて、ずばりと買って、濡らしちゃならぬと腰づけ・・・
泉鏡花
「国貞えがく」
-
・・・ひろ子にとって、ずばりと後家のがんばりを警告してくれるのが、良人である重吉よりほかにない実際だとすれば、本当に後家になった日本の数百万の妻たちには、誰が親身にそのことを云ってくれるのだろう。一生懸命に暮せばこそ身につきもするそういう女のがん・・・
宮本百合子
「風知草」