・・・敵性の言葉という理由で中等学校の正課から、英語がとりのぞかれ、レコードは音盤とよばれ、イギリスやアメリカの音楽はレコードできいてもいけなかった。世界の声のきける短波のラジオは使用禁止され、ラジオは軍部、情報局のさしずどおり、一九四五年八月の・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・大浦の祭壇や聖像は生花の束で飾られて居たが、この宏い大聖壇を埋めるに充分な花は得難いと見え、厚紙細工の棕櫚らしいものが、大花瓶に立ててある。この大会堂に信者が溢れて、復活祭でも行われる時は壮観であろう。然し私の好みを云うなら、自分は大浦の、・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
ナチスの暴虐に対して国際的な抗議がまき起っているのは当然であると思います。ドイツのナチスを云々する以前、現在われわれの身辺に京大の瀧川教授の問題があり、過去の文化の精華を最も正しく摂取しようとするマルクシストのみならず、ひ・・・ 宮本百合子 「ナチスの暴虐への抗議に関して」
・・・プロレタリア文学の正しい発展は、歴史的発展と共に有り、社会主義社会に於て最も美わしい精華を持つでしょう。国際性もその時にこそ充分に発揮することが出来ます。 一見全く個人的の事件と見える我々のいろいろの生活、例えば恋愛の葛藤なども、その拠・・・ 宮本百合子 「婦人作家の「不振」とその社会的原因」
・・・ ブルジョア文化は、その階級的特性によって、文学哲学の如く高度に発展した形態にあってはごく僅かのブルジョア・インテリゲンツィア婦人しか包括し得ないと同時に、それらの彼女らは謂わばブルジョア文化の精華として多分に、ブルジョア観念論的世界観・・・ 宮本百合子 「婦人作家は何故道徳家か? そして何故男の美が描けぬか?」
・・・カザン大学ではなくて、飢えであった。カザン大学正課にはないゴーリキイの「私の大学」時代がはじまったのである。 ゴーリキイは、淫売婦や貧しい大学生、人生での敗残者などがごたごた棲んでいるカザンの貧民窟の一隅に、急進的な一人の学生と暮した。・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・マリア自身、いかにもロシアの女らしいゆたかな生活力と天質に燃えながら、しかも同時代のロシアの歴史の精華と何の接触ももつことができず、それどころか、全く誤った見かたにおかれた彼女の境遇を私は哀れに思う。 当時全ヨーロッパが最良の精力をつく・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・協議離婚として、離婚しようとする対手の夫がその申出を承認し、二人の証人も承認し、妻がわかければ、妻の生家の戸主の署名までなければ、離婚は不可能であった。妻が夫の乱行に耐えず、また冷遇にたえがたくて離婚したくても、夫が承知しなければ、生涯ただ・・・ 宮本百合子 「離婚について」
・・・人類の文化の精華にふれてゆけるという或る憧れやロマンティックなもので、フランス語を学んでいたら、今度パリがおちたらフランスは博物館国になっているという風な云いかたをする人も出て、何だかその語学をつづけてゆく自信がないようになったということも・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
・・・梶は栖方の故郷をA県のみを知っていて、その県のどこかは知らなかったが、初め来たとき梶は栖方に、君の生家の近くに平田篤胤の生家がありそうな気がするが、と一言訊くと、このときも「百メータ、」と明瞭にすぐ答えた。また、海軍との関係の成立した日の腹・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫