・・・小ざっぱりとした白い壁の小部屋で、ピカピカ清潔な医療道具がガラス箱の内に揃っている。白い上っぱりを着た医者が一人の女の患者を扱っているところだった。「女はどうしても姙娠やお産で歯をわるくするのです。ところが働きながら歯医者へ通うことは時・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・ けれども、私たちは、自分の身につける肌着が清潔であるか、ないかという責任を、誰にゆだねているだろう。わたしたち自身が自分の身のしまつはしている。そうだとすれば、どうして自分の一生の価値のため、そのゆたかさと多様な希望の実現をもたらす生・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・協力は笑う、協力は最も清潔に憤ることも知っている。協力は愛のひとつの作業だから、結局のところ相手が自分に協力してくれるその心にだけ立って自分の協力も発揮させられてゆくという受身な関係では、決して千変万化の人間らしい協力の花を咲かせることはで・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・ 私たちは、自分のうちのものは、実によく気をつけて大切に使い、清潔に保ちます。しかし、汽車の中をよごすので有名なのは日本人です。公共建物の洗面所その他を、よくこわし、よくよごしぱなしにすることでも有名です。 これは、わたしたち日・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・金を儲ける文化企業者は、人民の生血そのものをも、平気で自分の利益に換えた。軍閥・資本家の結托というと、政治綱領めいて響くが、現実はまざまざとその真実であることを示しているのである。 日本の民主化ということは、実に実に重大な意味をもっ・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・ いつとはなし、宮田一族の迫った難渋を知った者達は皆同情して、世界中の悪口をあらいざらい、海老屋の人鬼、生血搾りに浴せかけた。 口では、まるで一ひねりに捻り潰してくれそうな勢で彼女を罵ることだけは我劣らじと罵る。 けれども、若し・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・人が穢いと云うと、己の体は清潔だと云っている。湯をバケツに棄てる。水をその跡に取って手拭を洗う。水を棄てる。手拭を絞って金盥を揩く。又手拭を絞って掛ける。一日に二度ずつこれだけの事をする。湯屋には行かない。その代り戦地でも舎営をしている間は・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・さみしさ凄さはこればかりでもなくて、曲りくねッたさも悪徒らしい古木の洞穴には梟があの怖らしい両眼で月を睨みながら宿鳥を引き裂いて生血をぽたぽた…… 崖下にある一構えの第宅は郷士の住処と見え、よほど古びてはいるが、骨太く粧飾少く、夕顔の干・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・一度なんぞは、ある気狂い女が夢中に成て自分の子の生血を取てお金にし、それから鬼に誘惑されて自分の心を黄金に売払ったという、恐ろしいお話しを聞いて、僕はおっかなくなり、青くなって震えたのを見て「やっぱりそれも夢だったよ」と仰って、淋しそうにニ・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫