・・・そして今年になって、農場がようやく成墾したので、明日は矢部もこの農場に出向いて来て、すっかり精算をしようというわけになっているのだ。明日の授受が済むまでは、縦令永年見慣れて来た早田でも、事業のうえ、競争者の手先と思わなければならぬという意識・・・ 有島武郎 「親子」
・・・今日になってみると、開墾しうべきところはたいてい開墾されて、立派に生産に役立つ土地になっていますが、開墾当初のことを考えると、一時代時代が隔たっているような感じがします。ここから見渡すことのできる一面の土地は、丈け高い熊笹と雑草の生い茂った・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・私は凄惨な感じに打たれて思わず眼を伏せてしまった。 愈々H海岸の病院に入院する日が来た。お前たちの母上は全快しない限りは死ぬともお前たちに逢わない覚悟の臍を堅めていた。二度とは着ないと思われる――そして実際着なかった――晴着を着て座を立・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・ 二三度手を敲いてみたが――これは初めから成算がなかった。勝手が大分に遠い。座敷の口へ出て、敲いて、敲きながら廊下をまた一段下りた。「これは驚いた。」 更に応ずるものがなかったのである。 一体、山代の温泉のこの近江屋は、大ま・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・ 第二は天然の無限的生産力を示します。富は大陸にもあります、島嶼にもあります。沃野にもあります、沙漠にもあります。大陸の主かならずしも富者ではありません。小島の所有者かならずしも貧者ではありません。善くこれを開発すれば小島も能く大陸に勝・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・印刷術と製本術とが、機械でされるようになって以来、生産の簡易化は、全く書物に対する考え方を変えてしまいました。同じく、文化を名目とはするものゝ、珍らしい、特志の出版家でもないかぎり、出版は、資本主義機構上の企業であり、商業であり、商品であり・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・薪や炭や、石炭を生産地から直接輸入して、その卸や、小売りをしているので、あるときは、駅に到着した荷物の上げ下ろしを監督したり、またリヤカーに積んで、小売り先へ運ぶこともあれば、日に幾たびとなく自転車につけて、得意先に届けなければならぬことも・・・ 小川未明 「空晴れて」
・・・ たとえ、それがために、現在のごとき、燦然たる機械文明は見られなくとも、また大量的な生産機関に発達しなくとも、そのかわり、相殺し、相陥ることから全く救われていたと言える。しかるに、資本主義的文化によって、人類の富は、平等を欠き、平和は、・・・ 小川未明 「単純化は唯一の武器だ」
・・・そして、児童の読物に於ては、誤れる現実の喜悲を清算して、真にこれを感じて尊重しなければならぬ人類の名誉、幸福のいかなるものであるかについて、知らしめ、意識せしめ、それに向って鼓舞せしめなければならぬものです。同時に、正純な美について、愛につ・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・この悪い風潮は黙々として、自己の生産に従事しつゝある、あらゆる階級にまで瀰漫せんとしつゝあります。 私は、児童芸術に没頭していますが、真に、児童の世界を擁護し、児童のためにつくす施設に乏しいのを感ぜずにいられません。浅薄なイデオロギーに・・・ 小川未明 「文化線の低下」
出典:青空文庫