・・・ 彼が生れた日の星座がそうだとでもいうのか、五月蠅いことのためばかりに、彼は弟子の藍子に頭が上らないほど身をつめ、しかも欣々然と我が世の重荷を背負っているではないか。 自ら尾世川の心にも漠然とした感慨が湧いて来たらしく、彼は暫く黙り込ん・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・女でも、ひろい室の真中に一列に正座させて、どこにも背中のもたせられないようにし、すこし居眠りしていると監房の大きな錠前をひどい音でガチャン! とたたきつけて、おどろかした。時間ぎめで、順ぐり用便させるとき、すこし手間をかけている男に、きくに・・・ 宮本百合子 「本郷の名物」
・・・白鳥だの孔雀だのという星座さえそこにはありました。凝っと視ていると、ひとは、自分が穢い婆さんの部屋にいるのか、一つの星となって秋の大空に瞬いているのか、区別のつかない心持になるのでした。 お婆さんを見かけたものはありません。 併し、・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
・・・私の頭の上にはオライオン星座が、讃歌を唱う天使の群れのようににぎやかに快活にまたたいている。人間を思わせる燈火、物音、その他のものはどこにも見えない。しかしすべてが生きている。静寂の内に充ちわたった愛と力。私は動悸の高まるのを覚えた。私は嬉・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
出典:青空文庫