・・・また晴天には現われず「晴れては曇り曇っては晴れる、村雲などが出たりはいったりする日に限って」現われるとある。また一日じゅうの時刻については「朝五つ時前、夕七つ時過ぎにはかけられない、多くは日盛りであるという」とある。 またこの出現するの・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・赤天狗青天狗銀天狗金天狗という順序で煙草の品位が上がって行ったが、その包装紙の意匠も名に相応しい俗悪なものであった。轡の紋章に天狗の絵もあったように思う。その俗衆趣味は、ややもすればウェルテリズムの阿片に酔う危険のあったその頃のわれわれ青年・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・仕合せに晴天が続いて毎日よく照りつける秋の日のまだなかなか暑かったであろう。斜めに来る光がこの饅頭笠をかぶった車夫の影法師を乾き切った地面の白い上へうつして、それが左右へゆれながら飛んで行くのが訳もなく子供心に面白かったと見える。自分はこの・・・ 寺田寅彦 「車」
・・・天晴天下の物知り顔をしているようで今日から見れば可笑しいかもしれないが、彼のこの心懸けは決して悪いことではないのである。 可能性を許容するまでは科学的であるが、それだけでは科学者とは云われない。進んでその実証を求めるのが本当の科学者の道・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ 翌日は晴天で朝から強い日が照りつけた。あまり暑くならないうちにと思って鋏を持って庭へ出た。 どこから刈り始めるかという問題がすぐに起こって来た。それはなんでもない事であったがまた非常にむつかしい問題でもあった。いろいろの違った立場・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・もしそうでなかったら曇り日に見たセザンヌと晴天に見たセザンヌは別物に見えなければならないわけである。同じようなわけで八畳の日本室で聞くヴァイオリンと、広い演奏室で聞く同じひき手の同じヴァイオリンとも別物でなければならない。 不完全なる蓄・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・インドの禿鷹について研究した人の結果によると、この鳥が上空を滑翔するのは、晴天の日地面がようやく熱せられて上昇渦流の始まる時刻から、午後その気流がやむころまでの間だということである。こうした上昇流は決して一様に起こることは不可能で、類似の場・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
一 昭和九年八月三日の朝、駒込三の三四九、甘納豆製造業渡辺忠吾氏が巣鴨警察署衛生係へ出頭し「十日ほど前から晴天の日は約二千、曇天でも約五百匹くらいの蜜蜂が甘納豆製造工場に来襲して困る」と訴え出たという記・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・ この日に限って、こうまで目立ってたくさんにいっせいにはじけたというのは、数日来の晴天でいいかげん乾燥していたのが、この日さらに特別な好晴で湿度の低下したために、多数の実がほぼ一様な極限の乾燥度に達したためであろうと思われた。 それ・・・ 寺田寅彦 「藤の実」
・・・かも明治の初年日本の人々が皆感激の高調に上って、解脱又解脱、狂気のごとく自己を擲ったごとく、我々の世界もいつか王者その冠を投出し、富豪その金庫を投出し、戦士その剣を投出し、智愚強弱一切の差別を忘れて、青天白日の下に抱擁握手抃舞する刹那は来ぬ・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
出典:青空文庫