・・・こんな慌しい書き方をした文章でも、江口を正当に価値づける一助になれば、望外の仕合せだと思っている。 芥川竜之介 「江口渙氏の事」
・・・自分は云う、あらゆる芸術の作品は、その製作の場所と時代とを知って、始めて、正当に愛し、かつ、理解し得られるのである。…… 僕は、金色の背景の前に、悠長な動作を繰返している、藍の素袍と茶の半上下とを見て、図らず、この一節を思い出した。僕た・・・ 芥川竜之介 「野呂松人形」
・・・ もし階級争闘というものが現代生活の核心をなすものであって、それがそのアルファでありオメガであるならば、私の以上の言説は正当になされた言説であると信じている。どんな偉い学者であれ、思想家であれ、運動家であれ、頭領であれ、第四階級な労働者・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・椿年は南岳の弟子で、南岳は応挙の高足源に学んだのだから、椿岳は応挙の正統の流れを汲んだ玄孫弟子であった。 馬喰町時代の椿岳の画は克明に師法を守って少しも疎そかにしなかった。その時代の若書きとして残ってるもの、例えば先年の椿岳展覧会に出品・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・役場では、その決闘というものが正当な決闘であったなら、女房の受ける処分は禁獄に過ぎぬから、別に名誉を損ずるものではないと、説明して聞かせたけれど、女房は飽くまで留めて置いて貰おうとした。 女房は自分の名誉を保存しようとは思っておらぬらし・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・それは矢張り政党等の内幕にあるような実情問題であった。何れの社会でも今日の状態ではきたない事はある。それが小学校に於て児童の事に関して存在するを見るのは誠に忌まわしいものだ。 小学校の教育が学術そのものよりも人間の感化にある事は何人も認・・・ 小川未明 「人間性の深奥に立って」
・・・ 昔、政党がさかんだった頃、自身は閣僚になる意志はてんで無く、ただ、誰かこいつと見込んだ男を大臣にするために、しきりに権謀術策をもちい、暗中飛躍をした男がいたが、良い例ではないけれども、まず、おれの気持もそんなとこだったろうか。 も・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・酔い癖の浄瑠璃のサワリで泣声をうなる、そのときの柳吉の顔を、人々は正当に判断づけていたのだ。夜店の二銭のドテ焼(豚の皮身を味噌で煮が好きで、ドテ焼さんと渾名がついていたくらいだ。 柳吉はうまい物に掛けると眼がなくて、「うまいもん屋」へし・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・ドイツ無産政党の組織者であったラサールには倫理学的エッセイ多く、エンゲルスや、シュモルラーには社会主義的倫理思想の論述の少なくないことは周知の如くである。そればかりでなくミルや、シヂウィックや、英国経験学派の系統を引く功利主義の倫理学はほと・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・この三つのものの正当なる権利の要求を、如何に全人として調和統合するかが結局倫理学の課題である。 三 文芸と倫理学 人生の悩みを持つ青年は多くその解決を求めて文芸に行く。解決は望まれぬまでも何か活きた悩みに触れてもらい・・・ 倉田百三 「学生と教養」
出典:青空文庫