・・・ 十二 一と頃、学生の観客の多い映画館で、ニュース映画の中にたまたまソビエトの赤旗の行列などがスクリーンに現われると、観客席の暗闇から盛んな拍手が起るのであった。ことによると、自分の中にもどこかに隠れているら・・・ 寺田寅彦 「KからQまで」
煙突男 ある紡績会社の労働争議に、若い肺病の男が工場の大煙突の頂上に登って赤旗を翻し演説をしたのみならず、頂上に百何十時間居すわってなんと言ってもおりなかった。だんだん見物人が多くなって、わざわざ遠方から汽・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・その前を赤い腰巻きをしたインド人が赤旗を持ってのろのろ歩いていた。 エスプラネードを歩く。まっ黒な人間が派手な色の布を頭と腰に巻いて歩いているのが、ここの自然界とよく調和していると思って感心した。 宝石屋の前を通ると、はいって見ろと・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・昔の人でもおそらく当時彼らの身辺の石器土器を「見る」と同じ意味で化け物を見たものはあるまい。それと同じようにいかなる科学者でもまだ天秤や試験管を「見る」ように原子や電子を見た人はないのである。それで、もし昔の化け物が実在でないと・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・しかるに狭量神経質の政府は、ひどく気にさえ出して、ことに社会主義者が日露戦争に非戦論を唱うるとにわかに圧迫を強くし、足尾騒動から赤旗事件となって、官権と社会主義者はとうとう犬猿の間となってしまった。諸君、最上の帽子は頭にのっていることを忘る・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ ……民衆の旗、赤旗は…… 一人の男は、跳び上るような姿勢で、手を振っている……と、お初は、思わず声をあげた。「アッ、利助が、あんた利助が?」 お初は、利平の腕をグイグイ引ッ張った。「ナニ利助?」 まったく! 目を瞠・・・ 徳永直 「眼」
・・・ジョバンニが見ている間その人はしきりに赤い旗をふっていましたが俄かに赤旗をおろしてうしろにかくすようにし青い旗を高く高くあげてまるでオーケストラの指揮者のように烈しく振りました。すると空中にざあっと雨のような音がして何かまっくらなものがいく・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・まだすっかり出来上らないで頂上に赤旗がひるがえっていた。 十月三十日。 午後一時、ニージュニウージンスクへ止る一寸前、ひどい音がして思わず首をちぢめたら自分の坐っていたすぐよこの窓ガラスの外一枚が破れている。 ――小僧!・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・「スモーリヌイに翻る赤旗」そのほかは、かえって来てから一九三一年にかかれている。「ピムキン、でかした!」は、その年のはじめに日本プロレタリア作家同盟へ参加してから、農民文学のための雑誌『農民の旗』へかいたものだと思う。小説の形をとっているけ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・ 強烈なアーク燈に照らされ、群像の上にひるがえる幾流もの赤旗は夜に燃える火のようだ。左手につづく国立物品販売所の正面には、イルミネーションで、万国の労働者団結せよ!と、書き出されている。 広場の土は数十万の勤労者の足・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
出典:青空文庫