・・・陪臣の身をもって、北条義時は朝廷を攻め、後鳥羽、土御門、順徳三上皇を僻陲の島々に遠流し奉ったのであった。そして誠忠奉公の公卿たちは鎌倉で審議するという名目の下に東海道の途次で殺されてしまった。かくて政権は確実に北条氏の掌中に帰し、天下一人の・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ 村に攻めこんだ歩兵は、引き上げると、今度は村を包囲することを命じられた。逃げだすパルチザンを捕まえるためだ。 カーキ色の軍服がいなくなった村は、火焔と煙に包まれつつ、その上から、機関銃を雨のようにばらまかれた。 尻尾を焼かれた・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・ 母は兄の前では一言の文句もよく言わずに、かげで息子の不品行を責めた。僕は、「早よ、ほかで嫁を貰うてやらんせんにゃ。」 母と、母の姉にあたる伯母が来あわしている椽側で云った。「われも、子供のくせに、猪口才げなことを云うじゃな・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・与一の弟の与二は大将として淀の城を攻めさせられた。剛勇ではあり、多勢ではあり、案内は熟く知っていたので、忽に淀の城を攻落し、与二は兄を一元寺で詰腹切らせてしまった。その功で与二は兄の跡に代って守護代となった。 阿波の六郎澄元は与一の方か・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・それにしても、少年らしい不満でさんざん子供から苦しめられた私は、今度はまた新しいもので責められるようになるのかと思った。 末子も目に見えてちがって来た、堅肥りのした体格から顔つきまで、この娘はだんだんみんなの母親に似て来た。上は男の子供・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・王さまは、お若いときに、よその国を攻めほろぼして王をお殺しになりました。その王には一人の王女がありました。王さまは、それを自分の王妃にしようとなさいました。そうすると、王女はこっそりどこかへ遁げてしまって、それなり行く方がわからなくなりまし・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・「井伏の小説は、決して攻めない。巻き込む。吸い込む。遠心力よりも求心力が強い。」「井伏の小説は、泣かせない。読者が泣こうとすると、ふっと切る。」「井伏の小説は、実に、逃げ足が早い。」 また、或る人は、ご叮嚀にも、モンテーニュ・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・いや、責めるのじゃない。人を責めるなんて、むずかしい事だ。僕は、わかったけれども、何も言えなかったのだ。言うのが、つらくて、いっそ知らん振りしていようかとさえ思ったのだが、いまビイルの酔いを借りて、とうとう言い出したわけだ。いや、考えてみる・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・やりなさい、と申しましたら、芹川さんは敏感にむっとふくれて、あなたは意地悪ね、胸に短剣を秘めていらっしゃる、いつもあなたは、あたしを冷く軽蔑していらっしゃる、ダイヤナね、あなたは、といつになく強く私を攻めますので私も、ごめんなさい、軽蔑なん・・・ 太宰治 「誰も知らぬ」
・・・女が、そんな、子供の頃のささいな事で一生ひとから攻められなければならないのでしたら、女は、あんまり、みじめです。ああ、あたしはあなたを殺してやりたい。(清蔵のほうを向きながら二、三歩あとずさりして、突然、うしろ手で背後の襖お母さん! たのむ・・・ 太宰治 「冬の花火」
出典:青空文庫