・・・を見ているうちに私の心をうったのは、そんな名優とか大俳優とか一生云われることのない俳優たちが、どんなに熱心に科白を云い、扮装をし、舞台に一つの創造の世界を実現させて行こうと努力しているか、ということの感動であった。更に、その感動に加えて、そ・・・ 宮本百合子 「俳優生活について」
・・・これは素人の見方かもしれないが、もし、滝沢氏が弟の性格を十分人間的につかまえていて、舞台に芸術として生きたリアリティを感じて動いているのであったならばおそらく科白の間にあの人物らしい身のこなしで燃えるローソクを拾い上げ、それを消し、科白の間・・・ 宮本百合子 「一つの感想」
・・・ カッスルののこした芸術は、踊るあらゆる若者に愛されるのだ、というような科白での芸術論は、この場合、極めて非芸術的である。監督も勿論大した馬脚をあらわしているのだけれども、アステアにしろ、どうして、そこのところにこそ表現されるものとして・・・ 宮本百合子 「表現」
・・・その姿にも声にも堂々とネフリュードフの感傷をのりこえた女の力がたたえられてこそ、カチューシャが、ネフリュードフにこれから先の旅の無意味をしらせる科白に実感があり、不幸からの復活がある。この場面になると山口淑子はもう酔っぱらったり、男を罵倒し・・・ 宮本百合子 「復活」
・・・撥をすてて爪弾をして居ると、何となくその音がこないだ見た紙治の科白の様にきこえる。どうしてあの時はあんな風に酔わされたのかしら、涙が出て――涙が出て恥かしいほどだったが、涙のこぼれる方がまだ好いんだ。三味線をほっぽり出して壁によっかかってあ・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・政治なんかに用はない、と憤りをひそめた家庭婦人の捨台詞こそ、どんなに、これまでの「政治」に私たち全人民が見切りをつけているかということの端的なあらわれであると思う。本当に、私たちにとって、これまでの政治は一つも用がなくなっているのである。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫