・・・是亦吾社会百般ノ事物西洋ヲ模倣セント欲シテ到底模倣ダニ善クスルコト能ハザルノ一例ニ他ナラズ。酒茶ノ味ノ如キハ固ヨリ言フ可キ限リニ非ザル也。銀座街ノカツフヱー皆妙齢ノ婢ヲ蓄ヘ粉粧ヲ凝シテ客ノ酔ヲ侑ケシムルコト宛然絃妓ノ酒間ヲ斡旋スルト異ラズ。・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・只時ならぬ血潮とまで見えて迸ばしりたる酒の雫の、胸を染めたる恨を晴さでやとルーファスがセント・ジョージに誓えるは事実である。尊き銘は剣にこそ彫れ、抜き放ちたる光の裏に遠吠ゆる狼を屠らしめたまえとありとあらゆるセイントに夜鴉の城主が祈念を凝し・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・今は一缶十セントです。鰯なら一缶がまあざっと七百疋分ですねえ、締木にかけた方は魚粕です、一キログラム六セントです、一キログラムは鰯ならまあ五百疋ですねえ、みなさん海岸へ行ってめまいをしてはいけません。また農場へ行ってめまいをしてもいけません・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・一日十斤以上こんぶを取ったらあとは一斤十セントで買ってやろう。そのよけいの分がおまえのもうけさ。ためて置いていつでも払ってやるよ。その代り十斤に足りなかったら足りない分がお前の損さ。その分かしにして置くよ。」 ネネムは実にがっかりしまし・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・「サンタ、マグノリア、 枝にいっぱいひかるはなんぞ。」 向う側の子が答えました。「天に飛びたつ銀の鳩。」 こちらの子がまたうたいました。「セント、マグノリア、 枝にいっぱいひかるはなんぞ。」・・・ 宮沢賢治 「マグノリアの木」
・・・ショウの「セント・ジョン」でジャンヌ・ダークを演じたりして好評をえている。 エリカ・マンには、女性にめずらしい特長があり、疲れを知らない行動力、強靭な運動神経がある。ヘンリー・フォードが催したヨーロッパ早まわり競争に参加して、十日間に六・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・亀のチャーリーは相もかわらず貧乏で冬じゅう何も食わぬ二匹の亀の子とボロ靴下を乾したニューヨークの小部屋では五セントの鱈の頭を食って暮しているがピオニイルはゾクゾク殖えてゆくという物語を、五章からなるエピソード的構成で書いているのである。・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 私は云うに云えない感想をもって、ロンドンのセント・ポールの大寺院の前に佇んでいた。大戦のときの無名戦士の記念碑には、煤でうすよごれた鳩たちの糞がかかっている。見上げるセント・ポールの正面の大石段の日向には上から下まで、失業した男たちが・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
出典:青空文庫