・・・旋風の起るのも、目に見えぬ眷属が擁護して前駆するからの意味である。飯綱の神は飛狐に騎っている天狗である。 こういう恐ろしい飯綱成就の人であった植通は、実際の世界においてもそれだけの事はあった人である。 織田信長が今川を亡ぼし、佐木、・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・そのうち行列の前駆に騎兵が来ました。ピカピカ光る兜に黒い髪の毛をたらしている、キュイラシェと言うのだそうです。そのあとから楽隊が来る。止まったきりになっている電車の屋根の上はいっぱいの人でそこからも盛んにコンフェッチを投げる。楽隊のあとから・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・自ら生得の痴愚にあき人生の疲れを予感した末世の女人にはお身の歓びは 分ち与えられないのだろうか真珠母の船にのりアポロンの前駆で生を双手に迎えた幸運のアフロディテ *ああ、劇しい嵐。よい・・・ 宮本百合子 「海辺小曲(一九二三年二月――)」
・・・日本では社会科学そのものが、プロレタリア文学の前駆的な運動とともにうちたてられたばかりの時であったのだから。そのために、日本の社会発展の歴史のこまかい具体的な特徴について、いちどきに、はっきり理解することが不可能であった。フランス、イギリス・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ プロレタリア革命の前駆である民主主義革命の必然性、物的基礎は土地問題にある。土地問題と現在あるがごとき形で今日われわれに残されている封建的絶対主義との闘いにあり、広汎な層をふくみ専制支配に対するあらゆる不満を組織して行われる民主主義獲・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・ やがて上天気になる昼頃の前駆として、外濠の辺には、明るく輝く朝靄が、薄すりと立ち罩めて居た。宮中の賀式に列するらしい式服の軍人や文官が、腕車や自動車で飾羽根をなびかせ乍ら馳け違う。ちかちか燦く濠の水の面や、嬉しそうな小学生、靄の中から・・・ 宮本百合子 「又、家」
出典:青空文庫