・・・小作人は、折角、耕して作った稲を差押えられる。耕す土地を奪われる。そこでストライキをやる。小作争議をやる。やらずにいられない。その争議団が、官憲や反動暴力団を蹴とばして勇敢にモク/\と立ちあがると、その次には軍隊が出動する。最近、岐阜の農民・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・その葬儀の華やかさは、五年のちまで町内の人たちの語り草になりました。再び、妻はめとらなかったのであります。 というのが、私の小説の全貌なのでありますが、もとより之は、HERBERT EULENBERG 氏の原作の、許しがたい冒涜でありま・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・去年の秋だったかしら、なんでも青井の家に小作争議が起ったりしていろいろのごたごたが青井の一身上に振りかかったらしいけれど、そのときも彼は薬品の自殺を企て三日も昏睡し続けたことさえあったのだ。またついせんだっても、僕がこんなに放蕩をやめないの・・・ 太宰治 「葉」
・・・築地から、日本橋、高島屋裏の病院まで、ほんのちょっとでございましたが、その間、私は葬儀車に乗っている気持でございました。眼だけが、まだ生きていて、巷の初夏のよそおいを、ぼんやり眺めて、路行く女のひと、男のひと、誰も私のように吹出物していない・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・豆腐屋の葬儀には彼も父の黄村とともに参列した。十歳十一歳となるにつれて、この誰にも知られぬ犯罪の思い出が三郎を苦しめはじめた。こういう犯罪が三郎の嘘の花をいよいよ美事にひらかせた。ひとに嘘をつき、おのれに嘘をつき、ひたすら自分の犯罪をこの世・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・しかし水は労働争議などという言葉は夢にも知らない。 人間は自然を征服し自然を駆使していると思っている。しかし自然があばれだすと手がつけられないことを忘れがちである。全国至るところにある発電所の堰堤のどれかが、たとえば大地震のためにこわれ・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・で貸借の争議を示談させるために借り方の男の両手の小指をくくり合せて封印し、貸し方の男には常住坐臥不断に片手に十露盤を持つべしと命じて迷惑させるのも心理的である。エチオピアで同様の場合に貸し方と借り方二人の片脚を足枷で縛り合せて不自由させると・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ 五 八十三で亡くなった母の葬儀も済んで後に母の居間の押入を片付けていたら、古いボールの菓子箱がいくつか積み重ねてあるのに気がついた。何だろうと思って明けてみると、箱の奥に少しずつ色々の菓子の欠けらが散らばっ・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・そうして、葬儀場は時として高官の人が盛装の胸を反らす晴れの舞台となり、あるいは淑女の虚栄の暗闘のアレナとなる。今北海の町に来て計らずこのつつましやかな葬礼を見て、人世の夕暮れにふさわしい昔ながらの行事のさびしおりを味わうことが出来たような気・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
煙突男 ある紡績会社の労働争議に、若い肺病の男が工場の大煙突の頂上に登って赤旗を翻し演説をしたのみならず、頂上に百何十時間居すわってなんと言ってもおりなかった。だんだん見物人が多くなって、わざわざ遠方から汽・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
出典:青空文庫