・・・ たとえ、それがために、現在のごとき、燦然たる機械文明は見られなくとも、また大量的な生産機関に発達しなくとも、そのかわり、相殺し、相陥ることから全く救われていたと言える。しかるに、資本主義的文化によって、人類の富は、平等を欠き、平和は、・・・ 小川未明 「単純化は唯一の武器だ」
・・・』――『チャプリン氏を総裁に創立された馬鹿笑いクラブ。左記の三十種の事物について語れば、即時除名のこと。四十歳。五十歳。六十歳。白髪。老妻。借銭。仕事。子息令嬢の思想。満洲国。その他。』――あとの二つは、講談社の本の広告です。近日、短篇集お・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・並行的使用は両方の要素を相殺し、対位法的編成は二つのものを生かし強調するのである。 有色映画 音声を得た映画がさらに色彩を獲得することによっていかなる可能性を展開するかという問題がある。 無声映画の時代にフィルム・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・セットの各要素がかえって相殺し相剋して感じがまとまらない。これらの点についても、監督の任にある人は「俳諧」から学ぶべきはなはだ多くをもつであろう。それからまた県土木技師の設計監督によるモダーン県道を徳川時代の人々が闊歩したり、ナマコ板を張っ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ 高知は毎時観測の材料がなくて調べなかったが、広島や大阪では、前記の地方的季節風が比較的弱くて、その代りに海陸風がかなり著しく発達している、そうして夕方から夜へかけては前者が後者と相殺する、そのために夕凪がかなりはっきり現れる、そうして・・・ 寺田寅彦 「夕凪と夕風」
・・・この結果によると、太平洋岸や瀬戸内海沿岸の多くの場所では、いわゆる陸軟風と季節的な主風とが相殺するために、夕なぎの時間が延長されるのであるが、東京では、特殊な地形的関係のおかげでこの相殺作用が成立しない。そのために、正常な天候でさえあれば、・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・ 最近の犯罪傾向が暗示する、骨肉相殺がないか? 人々は信ずる処を失ってしまった。滅茶苦茶であった。虚無時代であった。恐怖時代であった。 棍棒は、剣よりもピストルよりも怖れられた。 生活は、農民の側では飢饉であった。検挙に次ぐ検挙・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・『世界の顔』で、国際的信望を失いつつある鳩山一郎氏が、自由党という第一党の首領であり得ることも、おどろかれるし、現職のまま幣原首相が進歩党の総裁となって入党したことも、民主とはかかることにさえつけられる名称かと、日本の民主主義の異常さに、目・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・その世論調査では、吉田総裁の民主自由党が第一位を占めていた。『毎日新聞』の発行部数は百万と二百万の間と云われている。日本では、まだ新聞とラジオは天下の真実しかつたえないものだと信じている素朴で正直な人々がどっさりある。政府のいうことなんか信・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ 国鉄整理にからんでおこった下山国鉄総裁の死は、最大限に政府の便宜のために利用された。共産党に関係のある兇悪な犯罪事件のように挑発され、一部の知識人さえその暗示にまきこまれた。ところが他殺でないことがわかったきょうでも、まだ死者に対・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
出典:青空文庫