・・・然らば彼安助を造らば、即時に科に落つ可きと云う事を知らずんばあるべからず。知らずんば、三世了達の智と云えば虚談なり。また知りながら造りたらば、慳貪の第一なり。万事に叶う DS ならば、安助の科に堕せざるようには、何とて造らざるぞ。科に落つる・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・怪我にも真似なんかなさんなよ。即時、好容色な頤を打つけるようにしゃくって、と云うが疾いか、背中の子。」 辻町は、時に、まつげの深いお米と顔を見合せた。「その日は、当寺へお参りに来がけだったのでね、……お京さん、磴が高いから半纏おんぶ・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・自分の心は即時に安心ができぬと答えた。いよいよ余儀ない場合に迫って、そうするより外に道が無かったならばどうするかと念を押して見た。自分の前途の惨憺たる有様を想見するより外に何らの答を為し得ない。 一人の若い衆は起きられないという。一人は・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・陳列換えは前総長時代からの予ての計画で、鴎外の発案ではなかったともいうし、刮目すべきほどの入換えでもなかったが、左に右く鴎外が就任すると即時に断行された。研究報告書は経費の都合上十分抱負が実現されなかったが、とにかく鴎外時代となって博物館か・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・と後日の再訪を求めて打切られるから、勢い即時に暇乞いせざるを得なくなった。随って会えば万更路人のように扱われもしなかったが、親しく口を利いた正味の時間は前後合して二、三十分ぐらいなもんだったろう。 が、沼南の「復たドウゾ御ユックリ」で巧・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・出版の都度々々書肆から届けさしたという事で、伝来からいうと発行即時の初版であるが現品を見ると三、四輯までは初版らしくない。私の外曾祖父は前にもいう通り、『美少年録』でも『侠客伝』でも皆謄写した気根の強い筆豆の人であったから、『八犬伝』もまた・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・桜井女学校の講師をしていた時分、卒業式に招かれて臨席したが、中途にピアノの弾奏が初まったので不快になって即時に退席したと日記に書いてある。晩年にはそれほど偏意地ではなかったが、左に右く洋楽は嫌いであった。この頃の洋楽流行時代に居合わして、い・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・左記の三十種の事物について語れば、即時除名のこと。四十歳。五十歳。六十歳。白髪。老妻。借銭。仕事。子息令嬢の思想。満洲国。その他。』――あとの二つは、講談社の本の広告です。近日、短篇集お出しの由、この広告文を盗みなさい。お読み下さい。ね。う・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・に引用された「病牀即事」を詠じた十首は、もう少し複雑になっている。「月」は毎句にあり、「ガラス戸」が六、「鳥かごの屋根」と「森」と「ランプ」が各二あるが、そのほかにもいろいろの景物が点綴され、ほととぎすや白雲や汽車やブリキや紙や杉木立ちやそ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・南郭文集初編巻の四に即事二首篠池作なるものを載せている。其一に曰く「一臥茅堂篠水陰。長裾休レ曳此蕭森。連城抱レ璞多時泣。通邑伝レ書百歳心。向レ暮林烏無数黒。歴レ年江樹自然深。人情湖海空迢※も明和安永の頃不忍池のほとりに居を卜した。大田南畝が・・・ 永井荷風 「上野」
出典:青空文庫