・・・ 数馬は傍輩の口から、外記が自分を推してこのたびの役に当らせたのだと聞くや否や、即時に討死をしようと決心した。それがどうしても動かすことの出来ぬほど堅固な決心であった。外記はご恩報じをさせると言ったということである。この詞ははからず聞い・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ かくて某は即時に伽羅の本木を買い取り、仲津へ持ち帰り候。伊達家の役人は是非なく末木を買い取り、仙台へ持ち帰り候。某は香木を三斎公に参らせ、さて御願い申候は、主命大切と心得候ためとは申ながら、御役に立つべき侍一人討ち果たし候段、恐れ入り・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・ かくて某は即時に伽羅の本木を買取り、杵築へ持帰り候。伊達家の役人は是非なく末木を買取り、仙台へ持帰り候。某は香木を松向寺殿に参らせ、さて御願い申候は、主命大切と心得候ためとは申ながら、御役に立つべき侍一人討果たし候段、恐入り候えば、切・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
出典:青空文庫