・・・これは、取りも直さず、これらの諸作家が平常の如何に関らず戦争に際して、動員され得るだけの素地を持っていたことを物語るものである。岩野泡鳴には凱旋将軍を讃美した詩がある。 自然主義運動に対立して平行線的に進行をつゞけた写生派、余裕派、低徊・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・とでも訳する所であろうが、とにかくフランス人らしい巧妙な措辞である。「誅戮」「討伐」「征伐」「征討」などと、武張ったどこかの国のジャーナリストなら書きたい所であろう。それを「平和化」と云ったところはやはりフランス人である。 こんなことを・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・それは単に語彙中のあるもののみならず、その文法や措辞法に、東西を結びつける連鎖のようなものを認める、と思ったからである。 最近に至って「言語」に対する自分の好奇心を急激な加速度で増長せしめるに至った経路はあるいは一部の読者に興味があるか・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・実に巧妙な措辞であると思う。この知事のような為政者は今でも捜せばいくらでも見つかりそうな気がするのである。 少なくも、むやみに扁桃腺を抜きたがる医者は今でもいくらもいるであろう。 十八 近年の統計によると警視・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・社会的モラルの問題となし得る先行的な事実、新たな芸術創造のための素地の探求、理解の具体性として、生活事情と色感とのなまなましい関係が今日の問題としていかに深められているか、と考えるのであった。 二 こういう・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・謂わばそれらの賞によって文学を産む素地の萎縮を救い得るかのように考えた既成作家の文学観が問わるべきであろう。社会の現実の内で所謂知識階級と民衆との生活の游離が純文学を孤立化せしめた動機であることに疑ないのである。 ヒューマニズムの問題に・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・そして、現実の文壇処世としては、一般の教養的素地の未熟さを逆に反映してのこけおどしの教養ぶりも出現した。その意味では、この時期における教養尊重の風は、漱石時代より萎靡したものであったと云い得るのである。 幾変転を経て、今日、私たち作家は・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・「そして老舗となる素地を蓄えたのである」「戦後のハッタリ精神とヤミの没落は文学の面でも象徴的であった」火野葦平は文学に対する同人雑誌の任務、出版関係が「昔にかえった」ことを慶祝している。 戦後の出版界の空さわぎは、出版社というものが、つ・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・日本の文学精神が変らずにはすまない素地は歴史のこの辺のところに在るかもしれないのだ。 こんにちの空虚であって、しかもジャーナリズムの上での存在意欲ばかりはげしい文学現象を、現代人の「楽しみというものは、だんだん贅沢になるから、小説だって・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ そのような文学の動きは、新しい社会的な素地から作家と作品を成長させて来たばかりでなく、当時既に作家としてある程度の活動と業績を重ねた作家たちをも、各自の角度に従ってこの文学運動の中に引き入れた。先に触れた藤森成吉、秋田雨雀のほか片岡鉄・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫