・・・ 口やかましい、そして、そそっかしい風が、つぎに木の芽を見つけました。「おお、ほんとうにいい木の芽だ。おまえは、末には大木となる芽ばえなんだ。おまえの枯れた年老った親は、よくこの野原の中で俺たちと相撲を取ったもんだ。なかなか勇敢に闘・・・ 小川未明 「明るき世界へ」
・・・僕はそそっかしいので、あなたの音楽会の広告が出ていても、うっかり見逃しそうですから……」「はあ。でも、歌はおきらいなのでしょう?」 微笑していた。「いや、あれは取消しです。速記録から除いて貰いましょう。本員の失言でした」「ま・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・でたいへん名高いものだそうでございまして、私が最近、石川千代松博士の著書などで研究いたしましたところに依れば、いまから二百年ばかり前に独逸の南の方で、これまで見た事も無い奇妙な形の化石が出まして、或るそそっかしい学者が、これこそは人間の骨だ・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・僕が、そそっかしいんだよ。君は、はじめから僕が渋谷へなど来るのをいやがっていたんだものね。」大きい溜息が出て、胸の中が、すっとした。「うん、」佐伯は、恥ずかしそうに小さく首肯き、「言い直すひまが無かったんだよ。僕は、なんぼ何でも、映画の・・・ 太宰治 「乞食学生」
出典:青空文庫