・・・ 木村は何か読んでしまって、一寸顔を蹙めた。大抵いつも新聞を置くときは、極 apathique な表情をするか、そうでなければ、顔を蹙めるのである。書いてあるのは毒にも薬にもならないような事であるか、そうでなければ、木村が不公平だと感ず・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・ それから二人は今の牛ヶ淵あたりから半蔵の壕あたりを南に向ッて歩いて行ったが、そのころはまだ、この辺は一面の高台で、はるかに野原を見通せるところから二人の話も大抵四方の景色から起ッている。年を取ッた武者は北東に見えるかたそぎを指さして若・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・仏像は大抵蓮華の上にすわっているし、仏画にも蓮華は盛んに描かれている。仏教の祭儀の時に散らせる華は、蓮華の花びらであった。仏教の経典のうちの最もすぐれた作品は妙法蓮華経であり、その蓮華経は日本人の最も愛読したお経であった。仏教の日本化を最も・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
・・・明治大帝の詔にいう、「官武一途庶民に至るまで、各々そのこころざしを遂げ、人心をして倦まざらしめんことを要す」と。私利を先にして、天下万民に各々そのこころざしを遂げしむる努力を閑却するごときものは、大詔に違背せる非国民である。しかもこの徒が政・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫